研究課題/領域番号 |
18K03620
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大野木 哲也 大阪大学, 理学研究科, 教授 (70211802)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フロー方程式 / AdS/CFT / 有限温度 / アノマリー / ドメインウォール |
研究実績の概要 |
今年度は以下の研究を行った。 1)フローを用いた有限温度の場の理論の作る時空の研究: 場の理論から出発してフローされた場の作る計量から時空を構成する試みは、AdS/CFT対応の新しい理解のヒントになりうると期待される。CFTの一例であるd次元のmassless スカラー場の理論において、有限温度の場合にどのような時空が構成されるかを調べた。純粋なAdSブラックホール解と共通点もありながら、事象の地平線がなく、エキゾチックな物質場のエネルギー運動量テンソルを持つ時空が得られた。 2)重力における保存量の研究:上の研究の副産物として、ブラックホールの質量を保存量として計算する新しい方法を発見した。これはキリングベクトルを用いた方法でより一般化が可能であり、従来のハミルトニアンを用いた方法に比べると理論的に自然でかつシンプルな定義を与えている。様々なブラックホールやコンパクト天体など幅広い応用が可能である。 3)ドメインウォールフェルミオンを用いたMod 2 index の研究:アノマリーを理解する上で重要な指標となるmod 2 index はこれまで非物理的な境界条件で定式化されており、バルクとエッジの寄与の分離は難しいと考えられていた。深谷、川井、松木、大野木、山口はドメインウォールフェルミオンを用いてmod 2 index を物理的境界条件の下でバルクとエッジの寄与を分離することが出来る可能性を示した。 4)Atiyah-Patodi-Singer(APS) 指数定理とdomain-wall Dirac 演算子の研究:深谷、大野木、山口は、2017 年にAPS 指数と同じ量がdomain-wall Dirac 演算子から得られることを示した。この研究は発見法的になされたが、東大の古田、山下、名古屋大の松尾の3名の数学者が共同研究に加わり、一般に偶数次元のAPS 指数はdomain-wall Dirac演算子のη 不変量で書き直せることを数学的に証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フローの作る時空構造をこれまで調べられていなかった有限温度の場合に拡張した。この研究の中で一般相対性理論における保存量の新たな定義と計算法を発見したことは予想外の進展である。今のところキリングベクトルの存在を必要としているが、より一般化が可能であり今後の進展が大いに期待できる。
またドメインウォールを用いたアノマリーインフローの研究も、格子理論への拡張やmod 2 indexへの拡張など、新たな拡張が得られた。特にmod 2 indexをドメインウォールを用いて再定式化する研究は数学的にも全く新しく大きな進展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
フローを用いた時空の研究の中で有限温度とブラックホールの関係に特に着目している。自由場の次に取り組む課題として、2次元のCFTや3次元のO(N)シグマ模型など、相互作用がありながらも解析的に解ける模型について研究し、対応する時空の構造を探る予定である。
また、保存量の研究はキリングベクトルがない場合の一般化について、新たな進展が得られつつある。様々な例での構成を行う予定である。
アノマリーの研究はmod 2 indexのドメインウォールフェルミオンによる構成をさらに推し進め、より一般のglobal anomaly も研究する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた研究集会が先方の都合でキャンセルになっため、次年度に持ち越した。
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