研究課題/領域番号 |
18K03621
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 実 大阪大学, 理学研究科, 助教 (70273729)
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研究分担者 |
杉山 和彦 京都大学, 工学研究科, 准教授 (10335193)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 同位体効果 / キングの線形性 / 新しい力 / ディラック方程式 / イオントラップ / イッテルビウムイオン / 単一イオン分光 |
研究実績の概要 |
精密分光技術を用いた,原子・イオンのスペクトルのアイソトープシフト(isotope shift,IS)の測定による原子内で作用する未知の力の検出について研究を行なった. 中心となるアイデアは,2種類の遷移のISの間の「キングの線形性」とその破れである.原子核の有限サイズ効果によるIS(field shift,FSと呼ばれる)が,質量数に依存する因子と遷移に依存する因子の積で書ける場合に,線形性が成り立つ.未知の相互作用によるISが加わると,一般にはこれが成立しなくなり,線形性が破れる.2種類の遷移について3つ以上の同位体ペアでISを測定して,線形性の破れを検出することで,原子内に作用する未知の力の情報を得ることが目標である. 2019年度に代表者は,FSを支配する原子核内の相対論的波動関数を数値的に求め,前年度の成果と合わせて,必要な全領域での波動関数を得た.これを用いてIS非線形性の相対論的評価を行ない,非相対論的解析と比較することにより,相対論効果について明かにした.その結果,p1/2状態を含む遷移を用いると高次FSによる非線形性が大きくなり,新物理探索の重大な障害となり得ることを発見した.これを避けるために,p3/2状態を用いることを提案した. また,原子ニュートリノ過程におけるQED背景事象,高エネルギー光渦生成等について研究を行なった. 分担者は2019年度に,天然存在比が0.13%と希少な同位体168イッテルビウムイオン(Yb+)の、単一イオントラップ技術を確立した.さらに,ラム・ディッケ領域に閉じ込めるために,直径0.8mmのトラップ装置のオーブンに天然同位体混合物を装填し,168Yb+を含むすべての偶数同位体の単一イオンを,選択的にトラップすることに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表者は,相対論効果を取りいれたISの評価に必要な解析的計算,および数値計算コードを完成させ,Caイオン,Ybイオンの波動関数を原子核内を含む全領域で求め,それを用いて論文を発表した.また,別の原子についての解析も準備している.
分担者は、168Yb+の単一イオントラップ技術を確立した.168 Yb+の冷却遷移と冷却リポンプ遷移の同位体シフトは知られていなかった.別の遷移の同位体シフトとKingプロットからこれらの同位体シフトを予測し,光イオン化遷移はランプ中のYb原子の飽和吸収分光を用いて設定した。この技術は直径5mmのリング電極のトラップで確立した.さらに,168Yb+を含むすべての偶数同位体の単一イオンを、選択的にトラップすることに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
代表者: これまでに完成させた相対論効果を取りいれたIS非線形性の評価方法を用いて,CaイオンおよびYbイオンの最新の実験結果を分析する.また,他の元素についても期待される新物理に対する感度を調べる.
分担者: Yb+の5種類の偶数同位体で,自然幅20Hzの2S1/2-2D5/2四重極遷移の単一イオン分光を行う.そして,まずは光周波数コムを用いて,GPS時計の不確かさで同位体シフトの測定を行う.つづいて,同位体シフトの不確かさを改善するために,分光用レーザーを周波数掃引するためのオフセットロックレーザーをもう一台作成する,そして,1台のトラップ装置で,同位体174,もしくは可能であれば磁場による周波数シフトが小さい同位体171の遷移スペクトルを取得すると同時に,もう1台のトラップで各偶数同位体のスペクトルを取得し,同位体シフトを測定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19対応のため,学会等への参加および在外研究協力者の本邦への招聘を見合わせ,旅費が不要となった.次年度予算と併せて次年度の招聘期間の延長に使用する予定である.
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