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2021 年度 実施状況報告書

ゲージ・重力対応に基づいた量子・重力理論のカオス現象の研究

研究課題

研究課題/領域番号 18K03623
研究機関中央大学

研究代表者

棚橋 典大  中央大学, 理工学部, 助教 (50581089)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2023-03-31
キーワードブラックホール / ブラックホール摂動 / カオス / 変数分離性 / ゲージ・重力対応 / 物性理論
研究実績の概要

今年度は主として以下の研究課題に取り組んだ。
・カオス強度のエネルギー上限:カオスの強度は相空間内における軌道のずれの増幅率に相当するリアプノフ指数によって記述される。このリアプノフ指数が系の温度によって上限づけられるのではないかという予想がMaldacenaらによって提案され、様々な見地から検証されてきた。このカオス強度上限仮説を拡張したものとして、リアプノフ指数の系のエネルギーへの依存性の冪には上限が存在するのではないかという仮説を提案し、その理論的・実験的傍証を与えた。
・ブラックホール摂動論:ブラックホールの動的現象はブラックホール摂動論を用いれば解析できるが、一般には摂動方程式は時空計量についての複雑な連立偏微分方程式系となり、その解析には技術的困難が伴う。ここで、ある種の高次元回転ブラックホールの重力摂動に関して、特定の摂動成分については変数分離法が適用可能であり、摂動方程式が常微分方程式系に簡約化されることが新たに分かった。現在、この手法に基づいてブラックホールの安定性などの動的な性質について解析を進めている。
・せん断流についてのゲージ・重力対応:量子場の理論における動的状態についての理論解析は一般に技術的困難が伴う。ここで、量子場の理論を古典重力理論に対応付けるゲージ・重力対応に基づけば、動的現象の取り扱いを得意とする重力理論のテクニックを用いることで同じ問題をより容易に解析することが可能となる。この手法に基づいて、せん断流が存在するような系について重力理論における対応物を構成し、その性質について解析を行った。またこのような系における現象論について物性理論研究者との議論も本年度より開始し、新たな理論予言の提案に向けて検討を進めている。
上記のほか、拡張された重力理論の性質に関する研究も進め論文発表などを行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

前項で述べた各項目の進捗状況は下記のとおりである。
・カオス強度のエネルギー上限:当研究課題の主目的であったカオス現象の性質の解明に関して、先行研究たるMaldacenaらによるカオス強度上限予想をより一般化した提案を行い、本年度中に論文投稿を行った。
・ブラックホール摂動論:前年度より取り組んでいたブラックホール摂動論の研究について、ブラックホールの安定性に関する具体的な解析結果が得られ、それに基づく論文発表に向けた準備が現在進展している。
・せん断流についてのゲージ・重力対応:せん断流という非平衡定常状態に関するゲージ・重力対応の新たな解析と、それに動機づけられた物性理論における現象論に関する議論が進展しており、論文としての発表に向けた準備を現在進めている。
以上のとおり、当初検討していた研究の枠を超えた研究の進展が実現された。これを踏まえ、論文発表に向けた準備中の項目もあるものの、予定していた以上の研究成果が得られつつあると判断する。

今後の研究の推進方策

研究の各課題について、今後以下のように研究を推進したい。
・カオス強度のエネルギー上限: 現状ではリアプノフ指数のエネルギー依存性の上限について仮説を提唱した段階であり、仮説の検証のためにはより多くの理論的・実験的検証が必要となる。カオス性を示す力学系などを用いた数値実験による検証、理論面からの検証、およびゲージ・重力対応の研究への示唆などについて順次考察を進める。
・ブラックホール摂動論:現在取り組んでいる解析を完了させ論文を発表するところまで今年度中に進める。それが完了したのち、当研究で開発した手法を活用した応用研究に取り組みたい。新たな種類のブラックホール不安定性の解明や、現在行っている線形解析を非線形領域に拡張して動的なブラックホール解を構築することを目指した研究などを現在計画している。
・せん断流についてのゲージ・重力対応:現在行っている物性理論における現象論に関する議論を進めて、論文として当年度中に発表することを目指す。また、当研究の結果に基づき、当初の目的であったゲージ・重力対応における非平衡現象に関する研究を再び進めたい。

次年度使用額が生じた理由

昨年度に引き続いてコロナ禍の影響により国内・海外出張の大幅な削減を余儀なくされており、その分の余剰金と前年度からの繰り越し分を次年度に繰り越すこととなった。経費は消耗品費、研究会参加費、講演謝金や研究会開催費などに充てることを考えている。

備考

コロナ禍のため研究会が開催しづらい状況に鑑み、重力理論とそれに関連する物理の研究についての情報交換と議論を活性化させることを目的としたオンラインセミナー "Online JGRG webinar series" を企画・開催し、当セミナーシリーズ発足当初から2021年10月まで研究会世話人を務めた。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2022 2021 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 オープンアクセス 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Invertibility conditions for field transformations with derivatives: toward extensions of disformal transformation with higher derivatives2022

    • 著者名/発表者名
      Eugeny Babichev, Keisuke Izumi, Norihiro Tanahashi, Masahide Yamaguchi
    • 雑誌名

      Progress of Theoretical and Experimental Physics

      巻: 2022 ページ: 013A01(37pages)

    • DOI

      10.1093/ptep/ptab151

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] A bound on energy dependence of chaos2021

    • 著者名/発表者名
      Koji Hashimoto, Keiju Murata, Norihiro Tanahashi, Ryota Watanabe
    • 雑誌名

      arXiv

      巻: 2021 ページ: 2112.11163

    • DOI

      10.48550/arXiv.2112.11163

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] Invertible field transformations with derivatives: necessary and sufficient conditions2021

    • 著者名/発表者名
      Eugeny Babichev, Keisuke Izumi, Norihiro Tanahashi, Masahide Yamaguchi
    • 雑誌名

      Advances in Theoretical and Mathematical Physics

      巻: 25 ページ: 309-325

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] 高次元回転ブラックホールの新たな重力摂動解析2021

    • 著者名/発表者名
      棚橋典大
    • 学会等名
      日本物理学会第77回年次大会
  • [学会発表] スカラー・テンソル理論における微分を含んだ変換の可逆条件とその応用2021

    • 著者名/発表者名
      棚橋典大
    • 学会等名
      第22回「特異点と時空、および関連する物理」研究会
  • [学会発表] Invertibility conditions for field transformations with derivatives: toward extensions of disformal transformations2021

    • 著者名/発表者名
      棚橋典大
    • 学会等名
      The 30th Workshop on General Relativity and Gravitation in Japan
    • 国際学会
  • [学会発表] スカラー・テンソル理論における高階微分を含んだ可逆変換について2021

    • 著者名/発表者名
      棚橋典大
    • 学会等名
      第2回ブラックホール研究会
    • 招待講演
  • [備考] 個人ウェブページ 研究成果一覧

    • URL

      https://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~norihiro.tanahashi/publications.html

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公開日: 2022-12-28  

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