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2022 年度 実施状況報告書

ゲージ・重力対応に基づいた量子・重力理論のカオス現象の研究

研究課題

研究課題/領域番号 18K03623
研究機関中央大学

研究代表者

棚橋 典大  中央大学, 理工学部, 助教 (50581089)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2024-03-31
キーワード量子カオス / ゲージ・重力対応 / ブラックホール摂動 / 物性理論
研究実績の概要

今年度は主に以下の研究課題に取り組んだ。
・量子カオスの新たな指標:量子系におけるカオス(量子カオス)は、そのカオス性をどのように特徴づけるかに任意性がある。本研究では最近提案された新たな量子カオス強度の指標であるKrylov complexityとそれに関連する量に注目し、その性質を典型的な量子カオス系の一つである量子ビリヤードについて解析することで、量子カオス性の特徴づけに有用な量は何であるかの解明を試みた。
・ブラックホール摂動論:ブラックホールの動的性質はブラックホール摂動論を用いれば解析できるが、一般には摂動の運動方程式は複雑でその解析には技術的困難が伴う。この問題について、これまでに知られていたより広いクラスの高次元回転ブラックホールの重力摂動を変数分離法によって解くことが可能であると判明した。この新たな手法に基づいてブラックホールの安定性解析を現在行っている。
・せん断流についてのゲージ・重力対応:量子場の理論を古典重力理論に対応付けるゲージ・重力対応に基づけば、動的現象の取り扱いを得意とする重力理論のテクニックを用いることで同じ問題をより容易に解析することが可能となる。この手法に基づいて、せん断流が存在する物性系の重力理論における対応物を構成し、その性質について解析を行った。また、この系におけるスピン流の性質について物性理論研究者との議論を行い、論文発表に向けた準備を行った。
・ブレーンワールドについてのゲージ・重力対応:境界を持った場の理論(BCFT)における物理現象は、負の宇宙項を持ったAdS時空に張力を持った膜状の物体(ブレーン)が挿入された時空における重力現象と対応づいていることが知られている。この重力系における重力摂動の振る舞いを系統的に解析するための手法を与え、BCFTについてのゲージ・重力対応の成立を示す新たな証拠を得た。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

・量子カオスの新たな指標:量子ビリヤード系におけるKrylov complexityとそれに関連する量について解析した結果、量子カオス性の特徴づけに有用な量の分類に成功した。この成果に基づく論文の発表準備を現在進めている。
・ブラックホール摂動論:ブラックホール摂動論の新手法を用いた研究について、ブラックホールの安定性に関する具体的な解析結果が得られ、それに基づいた研究発表を行った。論文発表に向けた準備を現在進めている。
・せん断流についてのゲージ・重力対応:せん断流という非平衡定常状態に関するゲージ・重力対応の新たな解析と、それに動機づけられた物性理論における現象論に関する議論が進展しており、論文としての発表に向けた準備を現在進めている。
・ブレーンワールドについてのゲージ・重力対応: BCFTに対応するブレーンワールド模型について重力摂動の性質を系統的に解析した結果、BCFTの境界面における波動の反射現象をちょうど再現する重力摂動の性質が解明されたほか、重力摂動から予言されるBCFTのエネルギー・運動量の性質が本来のBCFTのそれと一致するなど、BCFTについてのゲージ・重力対応の成立を示す新たな証拠が得られた。この結果をまとめた論文発表や、それに基づく学会発表などを行った。
以上のとおり、当初検討していた研究の枠を超えた研究の進展が実現された。これを踏まえ、論文発表に向けた準備中の項目もあるものの、予定していた以上の研究成果が得られつつあると判断する。

今後の研究の推進方策

研究の各課題について、今後以下のように研究を推進したい。
・量子カオスの新たな指標:前項で述べた研究成果を論文として発表し、それに基づく研究発表を行う。また、 ビリヤード系以外の量子カオス系について解析を行い、新指標を用いた量子カオス性の評価などといった応用研究に取り組む。
・ブラックホール摂動論:これまでに得られた成果を取りまとめ、論文として発表するための準備を進める。論文が発表でき次第、この手法を応用した研究(線形不安定性に対応するブラックホールの非線形解の構築など)ができないか検討を進める。
・せん断流についてのゲージ・重力対応:物性理論にスピン流の現象論についての論文発表を近日中に行えるよう準備を進める。また、当研究の結果に基づき、当初の目的であったゲージ・重力対応における非平衡現象に関する研究を進める。
・ブレーンワールドについてのゲージ・重力対応:昨年度の研究成果でBCFTとブレーンワールドにおける重力理論とが対応関係にあることの状況証拠を得た。これと関連する対応関係として、低次元の量子重力理論がブレーンワールドにおける古典重力理論と対応寒けにあるという提案がなされている。これを検証するため、ブレーンワールドにおける古典重力理論の低エネルギー有効作用を導出し、それを量子重力理論の有効作用と比較することなどを検討している。

次年度使用額が生じた理由

昨年度に引き続いてコロナ禍の影響により国内・海外出張の削減を余儀なくされており、その分の余剰金と前年度からの繰り越し分を次年度に繰り越すこととなった。経費は消耗品費、研究会参加費、講演謝金や研究会開催費などに充てることを考えている。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (2件)

  • [雑誌論文] Ostrogradsky mode in scalar-tensor theories with higher-order derivative couplings to matter2023

    • 著者名/発表者名
      Naruko Atsushi、Saito Ryo、Tanahashi Norihiro、Yamauchi Daisuke
    • 雑誌名

      Progress of Theoretical and Experimental Physics

      巻: 2023 ページ: 1-21

    • DOI

      10.1093/ptep/ptad049

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Bound on energy dependence of chaos2022

    • 著者名/発表者名
      Hashimoto Koji、Murata Keiju、Tanahashi Norihiro、Watanabe Ryota
    • 雑誌名

      Physical Review D

      巻: 106 ページ: 1-4

    • DOI

      10.1103/PhysRevD.106.126010

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Brane dynamics of holographic BCFTs2022

    • 著者名/発表者名
      Izumi Keisuke、Shiromizu Tetsuya、Suzuki Kenta、Takayanagi Tadashi、Tanahashi Norihiro
    • 雑誌名

      Journal of High Energy Physics

      巻: 2022 ページ: 1-50

    • DOI

      10.1007/JHEP10(2022)050

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] ブラックホール時空の幾何学と流体的記述2022

    • 著者名/発表者名
      棚橋典大
    • 学会等名
      「混相流」勉強会
    • 招待講演
  • [学会発表] 非等角運動量 Myers-Perry ブラックホールの重力摂動の新たな変数分離法2022

    • 著者名/発表者名
      棚橋典大
    • 学会等名
      日本物理学会2022年秋季大会
  • [学会発表] Brane Dynamics of Holographic BCFTs2022

    • 著者名/発表者名
      棚橋典大
    • 学会等名
      The 31st Workshop on General Relativity and Gravitation in Japan
    • 国際学会
  • [学会発表] Brane Dynamics of Holographic BCFTs2022

    • 著者名/発表者名
      棚橋典大
    • 学会等名
      日本物理学会2023年春季大会
  • [備考] 個人ウェブサイト 論文・講演リスト

    • URL

      https://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~norihiro.tanahashi/publications.html

  • [備考] 中央大学 研究者情報データベース

    • URL

      https://c-research.chuo-u.ac.jp/html/100003177_ja.html

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公開日: 2023-12-25  

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