研究課題/領域番号 |
18K03624
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
瓜生 康史 琉球大学, 理学部, 教授 (40457693)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 相対論・重力(理論) / 重力波 / 相対論的宇宙物理学 / 数値相対論 / 相対論的回転星 / 連星中性子星 / ブラックホール |
研究実績の概要 |
本年度の研究では,Antonios Tsokaros 氏(UIUC)と Enping Zhou 氏(AEI)らと協力し高密度天体の初期データ計算コード(COCALコード)の開発をさらに発展させた。 これまでに数値相対論的シミュレーションで用いられてきた初期データの計算には,座標条件として maximal slice 条件の下で空間メトリックを共形平坦と仮定したり,Dirac 条件という,共形メトリックの発散をゼロとする条件が使われていた。この点を改良し,初期データ計算でも様々な座標条件を利用できる定式化とコード開発に成功した。このコードを用いて,高速回転するブラックホールとその周りのガスディスクからなる系を,Kerr-Schild 座標に極めて近い座標条件の下で計算することに世界で初めて成功した。結果をまとめた論文は,Physical Review D 誌に,Editors' Suggestion として掲載された。 次に,COCALコードの回転星計算コードに,新たな状態方程式として高密度クォーク物質の状態方程式を計算するルーチンを実装した。この状態方程式としては,最も良く利用される MIT bag モデルと,近年提案されたストレンジクォーク物質による状態方程式を用いた。これを用いて,非常にコンパクトな回転クォーク星の3軸不等形状や差動回転により大変形した軸対称形状を求めることに成功した。 最後に,以前に開発した連星中性子星の初期データを求めるためのCOCALコードを改良し,中性子星が様々な自転を持つ場合の準平衡連星中性子星の解の計算に成功した。このコードを利用して,重力波放出による連星中性子星のインスパイラルの際に成り立つと考えられている,自転による循環の保存を満たすような解系列を,様々な自転角運動量の大きさ持つ場合について系統的に計算し比較を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,研究実績の概要で述べた高速回転するブラックホールとその周りのガスディスクからなる系の初期データの計算コード開発が中心課題となった。これは,本研究計画の趣旨に沿った課題であるが,任意の座標条件で初期データを計算するというアイデアは本研究計画開始後に着想に至った。このアイデアを実現することは今後の研究の発展に特に重要であると判断したため,この計算コードの開発を優先して進めた。研究結果をまとめた論文は,Physical Review D 誌に,Editors' Suggestion として掲載されたため,一定の評価を受けたと考えている。現在は,強いトロイダル磁場とポロイダル磁場の両方を持つ回転星の平衡解計算の論文を執筆中である。この論文では,このような電磁場を伴う相対論的回転星の軸対称定常解を計算する一般的な定式化を詳しく議論し,数値計算法を紹介した後,極めて強い磁場を持つ回転星の解について,先行研究では見られなかった珍しい現象を発見したことを報告する予定である。一方で,これらの研究のため当初予定していたブラックホール-中性子星連星の計算コード開発等の計画を先送りしている。このため進捗状況は(2)おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要で述べた,様々な座標条件の下で数値相対論の初期データを計算する定式化とコードは,今後様々な問題で強力な手法となり得ると考えている。このため,本研究計画の中心課題としていたブラックホール-中性子星連星の計算コード開発を進める前に,この手法をさらに詳しく調べる研究を優先することを計画している。例えば,新しい手法を用いて,座標条件がブラックホールなどの高密度天体の近傍と十分遠方とで,それぞれ適したものに切り替わるような初期データ計算コードの開発を考えている。この新しい座標条件を用いる手法は強力だが,今後,数値計算に用いる差分法を高精度にする必要が出てくる可能性もある。この点を見極めつつコード開発を進めて行く。また,このほかに比較的結果を出しやすい研究も並行して進めることも考えている。その例として,これまでに計算に成功した強磁場を持つ高密度回転星のデータを初期条件として,実際に数値相対論的磁気流体シミュレーションを実行し,この様な回転星の安定性を調べることや,白色矮星の状態方程式をCOCALコードに実装することで,円軌道にある連星白色矮星の数値計算法を開発することなどを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題の初年度である当該年度に,当初約200万円程度のワークステーションを購入する予定であったが,これを1年先送りしたため次年度使用額が生じた。これは,新しいタイプのCPUを搭載したワークステーションが年度末に向けて出荷されるという情報を得たことと,当該年度は比較的数値計算量の少ない研究テーマに取り組んでいたことを考え合わせて決定した。ワークステーションの価格を再調査し,今年度の中ごろにワークステーションを購入する計画である。
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