研究課題/領域番号 |
18K03628
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
井上 貴史 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (80407353)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中性子星 / ハイペロン / 量子色力学 / 格子場の理論 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、中性子星のハイペロン問題に、基礎理論であるQCDの数値計算に基づいて挑戦するものである。すなわち、中性子星の核にハイペロンは存在するのか否か、もしするのであれば太陽質量の2倍を越える中性子星はどの様に支えられているのか、もししないのであれば自然な予想に反して超高密度物質のなかにハイペロンが混ざらないのは何故なのか、を明らかにしようとしている。ここで、ハイペロンとはストレンジネスを持ったバリオンであり、Λ,Σ,Ξなどが存在する。また、バリオンとは核子(陽子・中性子)の仲間の総称である。この問題を解く鍵の1つはハイペロンと核子の相互作用であり、もう1つはバリオン量子多体理論である。ハイペロンの相互作用は、実験的な情報が乏しいので、大規模な格子QCDの数値計算を実施し、基礎理論から導出した。この部分は研究協力者を含めた共同研究グループの下で行った。バリオン量子多体理論には、既に確立した近似理論である Bruckner‐Hartree‐Fock 理論を採用している。 一昨年度から、基礎理論から導いたバリオン間相互作用と BHF 理論の組み合わせが有効であることを検証する目的で、Ξ原子を研究している。Ξマイナスには負電荷があるので原子核に束縛され原子をつくる。そのエネルギー準位はバリオン間相互作用の影響で、影響がない場合と比べて変化している。エネルギー準位の間隔は放出されるX線を測定することで実験的に判るので、理論計算値と実験値を比較することで理論を検証することができる。本年度はΞ原子のエネルギー準位の計算を進めたが、新型コロナ感染症拡大の影響で成果を発表する機会はなかった。 国際会議 The 8th Asia-Pacific conference on Few-Body problems in Physics (APFB2020)の plenary に招待され、本研究課題の目標や手法などを紹介した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、中性子星のハイペロン問題を基礎理論から解明する事を目指している。研究に用いる理論的枠組みを実験データから検証する事は、研究の遂行に必要不可欠なステップである。実績の欄で述べた様に、Ξ原子を用いて検証を試みている。今年度は、新型コロナ感染症拡大の影響で、この検証をあまり進めることが出来なかった。それは、コロナ感染拡大防止の為、大学の授業がすべてオンライン授業になり、その準備に時間を取られたからである。また、共同研究者と対面での議論が全く出来なかったのも大きな要因である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度には、本来なら今年度に実施すべきあったが、新型コロナ感染症拡大の影響で出来なかった部分を進める。すなわち、今年度までに実施したΞ原子の計算をさらに発展させ、実験と比較できるレベルにまでに引き上げる。 これまでの計算は、計算の容易さからニッケル原子を選んでいたが、実際の J‐PARC における実験で測定されているのは鉄原子である。今後は鉄原子のΞ束縛状態に対応したい。そのためには有効G行列ポテンシャルの密度依存性や虚部の取扱いなど、越えなければならない点が幾つかある。文献を調査するなどして乗り越えたい。実験は現在も進んでおり、数年以内にデータが利用可能になると思われる。その時に比較ができる様に、精密な計算結果を準備しておきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、新型コロナ感染症拡大の影響で、研究協力者との議論や研究成果発表のために予定していた出張が全く実施できなかった。そのため、旅費の支出が一切なく、多額の未使用金が残ってしまった。次年度には国内の出張は可能になると思われる。次年度使用額は、今年度の遅れを取り戻すためにも、研究協力者との議論をより頻繁に行うための旅費などに活用したい。また、次年度は解析に用いる計算機の購入を予定している。当初の予定より大型で高価であるが、そのぶん高速で研究を加速できる計算機の購入などを検討したい。
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