研究課題/領域番号 |
18K03629
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
山田 泰一 関東学院大学, 理工学部, 教授 (70200722)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | テンソル最適化フェルミ球法 / 核物質 / 第一原理計算 / アルファ凝縮状態 / クラスターガス状態 / アイソスカラーモノポール遷移強度 |
研究実績の概要 |
強相関系である原子核には、平均場描像では理解できない様々な多粒子相関が現れるが、クラスター状態はその代表例である。最近クラスターガス状態という新しい存在形態が明らかにされ、宇宙における元素合成で重要な役割をしている12Cホイル状態はその典型例である。また、中性子星の表面などの低密度核物質にはアルファ凝縮状態という特異的な状態が出現すると考えられている。本研究の目的は、①クラスターガス状態の拡がりと深さをp殻およびsd殻領域において追究する、さらに、②第一原理による新しい核物質計算法であるテンソル最適化フェルミ球法(TOFS)の理論を発展させて、無限核物質のエネルギーの収束性問題やこれと密接に関連した短距離相関とテンソル相関の役割など原子核物理学の基本問題を解明することである。 本年度は上記②に研究の焦点を置き、大きな進展があった:エルミート形式に基づいた指数関数型相関関数を用いたTOFSにおいて連結クラスター展開定理が成立することを証明し、これを利用してベキ級数型相関関数を持つ場合の核物質計算法を定式化した。核力として中心斥力を持つAV4'の核物質計算を行い、Brueckner-Hartree-Fock(BHF)法など既存の方法と同等の結果が得られることを示した。 一方、①については、南京大のQing Zhao氏らと、ホウ素9原子核に対してTHSR波動関数による定式化と構造研究を行った。アルファクラスターとバレンス陽子の間の相関の記述を改良し、負パリティ状態のみならず正パリティ状態の構造が非局在化描像により良く理解できることを示した。また、大阪工大の明孝之氏らと、テンソル最適化反対称化分子運動力学法(TOAMD)において高運動量核子対を考慮することにより短距離相関やテンソル相関をより良く記述する方法を発展させ、この方法をヘリウム4核に適用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テンソル最適化フェルミ球法(TOFS)における連結クラスター展開定理の証明については論文にまとめて投稿し、Annals of Physics誌(Elsevier)に掲載決定となっている。また、TOFS法の初めての適用として、中心斥力を持つAV4'核力を用いた核物質計算結果の成果は論文としてまとめ、現在投稿中である。なお、連結クラスター展開定理の証明の概要については、2019年3月の日本物理学会第74回年次大会で発表した。 一方、ホウ素9原子核にTHSR波動関数による定式化と構造研究の成果はPhysical Review C誌に論文として発表された(日中仏独の共同研究)。さらに、テンソル最適化反対称化分子運動力学法(TOAMD)による成果については、Physical Review C誌に論文として発表された。
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今後の研究の推進方策 |
31年度は本研究計画2年目であり、これまでの研究を一層進展させると同時に、既に得られている重要な研究成果をまとめて国際会議における発表と論文の作成及び掲載を目指す。以下に、主として実施する個別テーマの推進方策を示す。 (a) テンソル最適化フェルミ球(TOFS)理論による核物質計算:核力としてテンソル力など非中心力を含むAV6'やAV8'を用いた核物質計算では核物質のエネルギーが計算法に依存し、収束性の問題があることが知られている。この原子核物理学の基本問題を解明するために、新しい計算法であるTOFSにより分析を進めて、核物質中における短距離相関とテンソル相関の役割やエネルギーの収束性などについて明らかにする。 (b) 20Neにおけるクラスターガス状態を調べるため、ガウス関数基底を用いた12C+α+α直交条件模型で分析を行う。この模型は3体の自由度をフルに取りいれることができる。12CについてはSU(3)模型波動関数で記述し、12Cの基底回転帯状態(0+、2+、4+)と2つのα粒子運動状態の結合を考慮に入れる。この模型を用いて、結合状態近似の下で12C+α+αガス状態と単極子遷移強度の分析を行い、実験データと比較・検討する。さらに複素回転座標法と組み合わせて単極子強度関数の分析も行う。 (c)上記(b)の進展を踏まえて、5α直交条件模型の予備計算を今年度の後半から開始し、次年度に本格的な数値計算を開始する。16Oにおける4α計算の経験あるので、これを踏まえてプログラミングと数値計算を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
30年度に当初参加する予定であった国際会議に事情のため参加ができなかったために次年度使用額が生じた。これは次年度の論文投稿費や別刷代、ソフトウェア購入代、来日予定の外国人共同研究者との研究打ち合わせなどに使用する予定である。
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