研究実績の概要 |
強相関系である原子核には、平均場描像では理解できない様々な多粒子相関が現れるが、クラスター状態はその代表例である。最近クラスターガス状態という新しい存在形態が明らかにされ、宇宙における元素合成で重要な役割をしている12Cホイル状態はその典型例である。また、中性子星の表面などの低密度核物質にはアルファ凝縮状態という特異的な状態が出現すると考えられている。本研究計画の主な目的は①クラスターガス状態の拡がりと深さをp殻およびsd殻領域において追究する、さらに、②最近開発された第一原理による新しい核物質計算法であるテンソル最適化フェルミ球法(TOFS)を基にして、核物質の状態方程式の導出と核物質における多体相関とテンソル相関の役割の解明を目指して理論の枠組みを発展させる、ことなどである。 4年間の研究期間において学部長職就任やコロナ禍などにより研究の進捗状況は遅れ気味であったが、①においては、最終年度に最重要課題である20Ne核における12C核と2個の4He核(α粒子)からなるクラスターガス状態の理論的分析に大きな進展があった。12C核の基底回転帯状態(0+,2+,4+)と2個のα粒子運動との結合をフルに考慮に入れることができるガウス関数基底での12C+α+α直交条件模型の本格的数値計算が進展し、12C+α+α閾値上近傍に3体クラスターのガス的状態が出現することを明らかにした。また、p殻領域核に対してはTHSR計算によるA=9,10体系の構造研究に新たな進展があった。一方、②に関しては、TOFS理論での連結クラスター展開定理の証明、中心斥力を持つAV4'核力を用いた対称核物質のベンチマーク計算の実施と6体項などの多体項の寄与の分析、現実的核力としてAV18力などを念頭にした対称核物質及び中性子物質に対する定式化を行い、本格的な数値計算への道筋をつけることができた。
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