本研究では、チャームバリオンの非レプトン三体弱崩壊に対する微視的反応模型を開発し、崩壊の二体部分系で生成されるマルチストレンジバリオン共鳴のスピン-バリティや質量スペクトルの精密決定を実現する新たな手法を提案することにより、以下を目標に研究を進めてきた: (1)ラムダチャームバリオン(Λc)非レプトン三体崩壊の現存するデータに対して包括的な部分波解析を実行し、この崩壊でアクセスが可能なグザイ(Ξ)バリオン共鳴の存在、質量スペクトル、崩壊幅、スピン-パリティを決定する。質量スペクトルや崩壊幅は、散乱振幅の複素エネルギー平面上での極として定義された値を抽出する。 (2)従来の研究で無視されてきた三体終状態相互作用が、三体崩壊の解析で得られるマルチストレンジバリオン共鳴の質量や崩壊幅の値に与える影響を明らかにし、従来の研究の妥当性・信頼性を検証する。 (3)ΞcやΩcの三体崩壊を通じてΞやΩバリオン共鳴の情報を抽出するのに最適な観測量、運動学的領域を精査し、BelleIIなどの衝突型加速器を通じて測定が可能な新しい崩壊実験の提案を行う。 前年度までは三体弱崩壊の微視的反応模型の構築において当初予期していなかった問題の解決に注力した。これに伴い、最終年度は最初の研究対象としていたΛc非レプトン三体崩壊よりも理論的取扱いが容易で、かつ本研究期間中にBelleグループにより実験データが報告され始めたΞc→Ξ-π+π+崩壊に着目し、当該崩壊を記述する微視的反応模型の構築に注力した。当該模型の計算プログラムの開発も実験データと比較可能な物理量を計算できる段階に来ている。 今後は、本研究で構築した模型を出発点にして、Ξc→Ξ-π+π+崩壊の観測量の理論的予言と実験データとの比較を通じ、存在が示唆されているΞ(1690)等のΞバリオン共鳴の存在の確定やその諸性質を決定するとともに、新粒子の発見を目指す。
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