研究課題/領域番号 |
18K03633
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
藤川 和男 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 客員研究員 (30013436)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | Majoranaフェルミオン / CP対称性 / Berry位相 / 磁気単極子 |
研究実績の概要 |
2つの基本的な研究課題について論文を書いた。すなわちベリー位相およびマヨラナフェルミ粒子の基本的な性質を解明した。 まずベリー位相というもののより基本的な理解を深めた。正確に解ける模型に基づきベリー位相のトポロジカルな性質を詳細に調べ、ベリー位相に特徴的なレベルの交差と断熱過程の仮定に含まれる物理的な帰結を明らかにした。ベリー位相はレベル交差の点から離れたパラメター空間では仮想的な磁気単極子のような振る舞いをするが、交差点の近傍に近づくと単極子の半分の磁荷を持つ半単極子になり、さらに交差点に近づくと双極子に変形することを示した。このスムーズなトポロジーの変形は、過去におけるある種の応用における結論の変更をせまるものである。ベリー位相に関係した磁気単極子はパラメター空間で定義されているが、この磁気単極子の実空間での対応物がどのようなものかは興味があるが、これは今まで知られていない新しいディラックの磁気単極子であることを示した。ベリー位相という量子力学の断熱過程に伴うパラメター空間に伴うトポロジカルな現象がこれまでには知られていなかった全く新しいディラック磁気単極子の存在に導くのは興味がある。 フェルミ粒子にはディラック型とマヨラナ型の2種類のフェルミオンが知られている。このうちマヨラナ粒子の定義に関して、長い間ニュートリノの研究者の間で誤解があり、数学的に矛盾した定義が使われていた。これを正すために、これまでのマヨラナ粒子の定義に使われた荷電共役の演算子はクリフォード代数の表現論で定義されるものではなく疑荷電演算子とも呼ばれるものであることを示した。また素粒子の標準模型のような理論ではマヨラナ的なニュートリノはカイラルなフェルミ粒子から構成されるが、この場合はマヨラナ粒子は荷電共役ではなくCP対称性で定義するのが、自然であり数学的にも矛盾しないものであることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、ベリー位相に関係した研究に関しては2編の論文を発表し、またマヨラナフェルミ粒子の研究に関しても2編の論文を発表した。 まずベリー位相に関しては、最初のベリーの模型でパラメターを制約した正確な解が得られる(申請者が過去に提案した)模型を解いて、ベリー位相のトポロジー的な性質を解明した。すなわち、パラメター空間で遠くから見れば磁気双極子のように見えるが近くに行くと磁荷が半分の単極子になり、さらに近づくと双極子に変わることを示した。これは過去にベリー位相のトポロジーと称して磁気単極子の安定性を仮定した多くの論文の論法に誤りがあることを示している。つぎに、この正確解を通常の時空に焼き直したものを定義して、それはこれまでに知られていなかった全く新しいディラック磁気単極子であることを示した。ベリー位相の考察が新しいディラック磁気単極子の発見に導くのは非常に興味深い。 次に、これまでの研究の継続であるマヨラナ粒子の対称性の考察を推し進めた。これまでに書かれた大部分の論文では、マヨラナニュートリノを荷電対称性で定義していたが、この荷電対称性は注意深く調べると数学的に矛盾したものであることを申請者と共同研究者は指摘していたが、これをさらに明確にするために、この荷電対称性は擬荷電対称性と呼ばれるべきものであることを示した。さらに、素粒子の標準模型を一般化してニュートリノに質量を与える考察では、カイラルなニュートリノからマヨラナニュートリノを構成するが、この場合には荷電共役は定義されなくて、CP対称性を用いるべきことを示した。これらの研究は今後のニュートリノの研究で基本的になることが期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、ヘルシンキ大学の研究者と過去の共同研究をさらに発展させる予定でいた。しかし、最近のコロナの流行により国際共同研究を中止させるかあるいは大幅に遅れる可能性が出てきた。これは研究費の使途にも大きな影響を与えるものである。Webを利用した共同研究は、申請者のこれまでの口頭で忌憚のない議論に基づき研究を遂行するスタイルとは大きく異なる。事実2020年の1月に、この7月の初旬から2か月間ヘルシンキを訪問し共同研究をする計画を立て、割引の航空切符を購入していたが、現時点では先方の大学は上記の期間閉じている予定になっており、海外出張は不可能になっている。さらに、航空会社は7月初旬から飛行機を正規に運行すると主張しており、切符のキャンセル料の支払いを要求している。このように長期的な研究計画に大きな支障が出ているのが実情であり、科研費の申請時に書いた海外との共同研究の見通しは立っていない。 上記の対策として、国内での研究の遂行を現時点では模索している段階である。一つの研究課題としては、今年度の業績としてあげた新しい磁気双極子における磁束の流れを理解するために、計算機で図示する研究を考えている。私の東大時代における学生さんで、計算機のエクスパートがおり、その人との共同研究を考えたいと思っている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
この科研費の使用目的の主たる種目は、国際的な研究交流と共同研究であるが、今年度(2019年度)は、先方の都合で次年度へ先送りになったために余剰金がでた。これは2020年度の研究計画に使用する予定であり、事実海外航空券の予約も2020年1月に済ませていた。しかし、今回のコロナ騒動で、国際交流の再開は現時点では見通せない状況になっている。もちろん、国内交流も計画しているし、将来の研究に備えて計算機等のテレワーク用の器機の整備に投資することも考えている。
|