我々の宇宙にある元素の合成過程において、恒星内での放射捕獲原子核反応や、超新星爆発におけるレプトン(電子、ニュートリノ等)原子核反応は決定的な役割を成すことが知られているが、反応率が極端に小さいため、実験による検出が難しく、系統的な反応率の評価は理論計算に頼らざるを得ない。本研究は原子核の外場による応答を第一原理的に求めることで、信頼のおける宇宙核反応率の評価を行う。核子(陽子・中性子)多体系である原子核の精度の良い記述には2核子力だけではなく3核子力の寄与が重要であるが、実験・理論研究の困難さから未だ大きな不定性が残されている。そこで模型を仮定しない一貫した枠組みにより、原子核構造・反応における3核子力の役割を明らかにし、信頼のおける宇宙核反応率を評価する枠組みを確立することが目的である。 最終年度は主に高エネルギー陽子による原子核反応を用い、宇宙核反応率の増大を引き起こす原子核クラスター状態について調べ、反応観測量と原子核構造との関係を明らかにした。また、原子核クラスター状態を効率的に記述する新たな計算手法を開発し、査読付き学術雑誌に発表した。この研究は宇宙核反応で重要な炭素や酸素の合成反応に密接に関係しており、第一原理的アプローチによってそれらの原子核状態の記述の効率化に寄与する。これら一連の研究成果は8編の査読付き誌上論文及び8件の国内外学術会合において発表され、基本的な相互作用から始め、核構造の成り立ち、宇宙核物理への応用へ向けた研究の基礎が固まりつつある。
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