研究課題/領域番号 |
18K03641
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 慎一郎 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (40568284)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 白色矮星 / 連星 / 重力波 / Ia型超新星 |
研究実績の概要 |
今年度は最初に,連星合体直後の高速自転平衡星モデルについて,状態方程式を部分縮退電子気体の半解析的なものに置き換えて計算するように数値コードを修正した. 次にこのコードで得られた平衡モデルについて.動径方向に1次元化した線形振動の固有値問題を解き,動的不安定なモードを求めた.平衡星の自転の速さをパラメータとしたモードの系列は,星の温度や質量に応じて予想外に複雑な振る舞いをすることを発見した.特に,Coriolis力を復元力とする複数の慣性モードが主に不安定化に寄与し,音波モード(f-, p-モード)は星の自転が十分に早くならないと不安定化に寄与していないことを発見した.これは,連星合体を模した星の回転則について,"low T/W不安定"は慣性モードによっていることを示している.
また,四重極近似をによって各不安定モードから放射される重力波の大きさを計算した.先行研究で示されたレムナントの典型的進化時間を1000秒ととり,その間に放射される重力波の振幅を計算すると,DECi-hertz Interferometer Gravitational wave Observerory(DECIGO)では100Mpcでも十分観測できる大きさとなる.
一方,白色連星合体後のレムナントを用いて,超新星SN2019bkcの光度曲線を説明する解析的モデルを作った.この超新星は減光が非常に速いという特異性をもつが,このモデルはレムナントの熱的進化に伴う磁場の変化を用いてこれを再現している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度開発した有限温度の白色矮星を求めるコードでは,温度0のコアと高温の外層の構造に不連続があるため,固有振動を求めることが難しかった.そのため,モデルの状態方程式を半解析的なものに変更してコードを修正した.これにより1次元化した固有振動問題は解けるようになったが,自転パラメータに対する振動モードの振る舞いが複雑で,モードのスペクトルの全体像を掴むことに時間を費やしてしまった.結果として,研究当初には予想していなかった慣性モードの不安定化を発見できた.また,この研究の主目的である,宇宙重力波望遠鏡での観測可能性について,肯定的な結果が得られた.この結果をまとめた論文を現在執筆中である.
一方で,線形な時間発展問題を解いて固有振動を計算するという課題については,コアと外層の不連続性が数値不安定を引き起こしている可能性もあり,進展していない.
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今後の研究の推進方策 |
1次元化した固有振動コードによる結果ではあるものの,本研究の主目的たる宇宙望遠鏡による重力波の観測可能性について肯定的な結果を得られた.そこで今年度は,2次元固有値問題の数値コード開発を進めつつ,現在使用可能な1次元コードを用いてレムナントの進化を考慮した計算を行う.この課題では,先行する数値シミュレーション研究での星の角運動量,熱的進化を模した平衡系列をつくり,それらの不安定振動と重力波放射を求めることとする.
他方で,レムナントの状態方程式をより現実的にした1次元固有振動解析を行う.現在の取り扱いでは,等エントロピーを仮定しており,レムナント外層の温度が低く抑えられてしまっている.外層でのエントロピー分布を,先行する数値シミュレーションの結果を参考にして,より現実的なものに置き換えてレムナントモデルを作り,これらの不安定振動と重力波放射を求める.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進展がが当初の予定より遅れたため,日本物理学会春季年会での発表を行わなかったことで,旅費支出が減少した.また,同じ理由で論文執筆が遅れ,論文誌への投稿料の支出も無かった.今年度分と合わせた助成金は,日本物理学会秋季,春季年会への参加と論文誌への投稿料として使用する.
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