研究実績の概要 |
4次元の超共形場理論であるArgyres-Douglas(AD)理論は, 非局所的な理論であり, ラグランジアンに基づいた議論ができないため, これまでにない新しい解析手法が必要となる. 本研究では, 量子Seiberg-Witten(SW)曲線と2次元量子可積分模型の対応(ODE/IM対応)に基づき, Argyres-Douglas理論を特徴付ける量子周期に対する非摂動効果の研究を行っている. 前年度の研究において(A1, AN)型のAD理論の量子SW曲線である, 多項式型のシュレーディンガー方程式の厳密WKB解析と量子可積分模型における熱力学的ベーテ方程式との対応が明らかにされ, 量子周期と可積分模型の関連が明確になった. 今年度の研究において, その対応を一般のAD理論に拡張するために, 量子SW曲線に関する研究を行い, 以下の結果を得た. (1) リー群Gに対し, (A1,G)型のAD理論の量子SW曲線はゲージ群Gを持つN=2超対称ゲージ理論のスケール極限で得られる.ある種のAD理論については, 異なるUV理論からのスケール極限により同じ理論が得られることが知られている. このAD理論のユニバーサリティを(A1,Ar)型及び(A1,Dr)型の量子SW曲線で検証した. その結果, AD理論の持つフレーバー対称性により量子SW曲線に量子補正が入ることが示された. (2) N=2SU(N)超対称QCDに付随するAD理論はEguchi-Hori-Ito-Yangにより分類されたが, 本年度の研究で量子SWのレベルでのAD理論へのスケール極限を具体的に構成し, 量子SW周期の補正項を4次のオーダーまで評価した. 量子補正は古典周期にモジュライパラメータの微分作用素を作用させて得られることを示し, 今後の量子SW曲線の厳密WKB解析への基礎を与えた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は一般的なArgyres-Douglas理論に関する量子Seiberg-Witten曲線の構造について系統的な研究を行なった. 特にArgyres-Douglas理論の量子Seiberg-Witten曲線と量子周期の計算について, 低次の補正項に関する一般公式を得ることができた. これは今後の量子Seiberg-Witten曲線と量子可積分模型との関係の検証の際に, 重要なデータを与えることを意味している. またN=2 SU(N)超対称QCDに付随するArgyres-Douglas理論の量子Seiberg-Witten曲線を構築したことは, 様々なフレーバー対称性を持つArgyres-Douglas理論の分類構成のための基礎を与えることができたと考えられる. 順調に研究は進展している.
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られたArgyres-Douglas理論に関する量子Seiberg-Witten曲線と量子可積分模型との関係を調べることが今後の課題である. まず一般のリー群Gに対応する量子Seiberg-WItten曲線に対応する量子可積分模型をODE/IM対応の枠組で調べる.そのために量子Seiberg-Witten方程式の解をWKB解析により考察し, 各特異点周りの解の基底を構成し, 異なる解の間の接続係数の満たす関数関係式を調べる. 特にArygres-Douglas理論では原点と無限遠点の解基底の接続係数は量子可積分模型のQ関数とみなすことができ, その零点は可積分模型のBethe仮説方程式の解となっていると予想されている. 今後はQ関数の満たす非線形積分方程式を量子Seiberg-Witten曲線から導出し, Q関数の零点を解析的、数値的な手法を用いて研究する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は順調に進展している. 今年度後半に参加を予定していた研究会がコロナウイルスのため中止となったため, 出張ができなくなった. 今年度は, 現在招待されている国際研究集会への参加を含め, 新たな国際共同研究を進めるための海外の大学の訪問や, 高度な数値計算用のワークステーションの整備を予定している.
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