研究課題/領域番号 |
18K03644
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
末松 大二郎 金沢大学, 数物科学系, 教授 (90206384)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | strong CP 問題 / クォーク・レプトンの質量階層構造 / CKM行列 / MNS行列 / 暗黒物質 |
研究実績の概要 |
実験・観測を通して明らかになってきたニュートリノ質量や暗黒物質の存在は標準模型の拡張が不可避であることを示唆している。標準模型の抱える複数の問題を互いに関連させる形で拡張標準模型の探索を進めることが本研究の目標であり、その際中間エネルギースケールにおける新物理存在の重要性に着目して研究を進めている。 今年度は、特に強い相互作用におけるCP対称性の破れの問題に焦点を当てて研究を進めた。中間エネルギースケールで自発的に破れる局所U(1)対称性とFroggatt-Nielsen機構に寄与する大域的U(1)対称性で標準模型を拡張することにより、標準模型における未解決課題であるクォーク・レプトンの質量階層構造とフレーバー混合、強い相互作用におけるCPの破れ問題、及び暗黒物質の存在が互いに密接に関連し合う形で説明されることを示した。同時に、強いCPの破れ問題を解決するPQ対称性は、これらの対称性の自発的破れの結果として、量子重力による破れをコントロールし十分に良い対称性として実現されること、ドメインウォール問題を回避する形で導かれることを示した。この研究成果は既に論文として発表され、雑誌に掲載済みである。強いCPの破れ問題を解決する模型にはaxion模型以外に、CP対称性を厳密な対称性として課す一方で、自発的CP対称性の破れを強いCP対称性の破れに寄与しない形で導入するNelsonとBarrにより提案された模型がある。この模型とaxion模型の一つであるKSVZ模型の類似性に着目し、Nelson-Barr模型とKSVZ模型との混合模型をPati-Salam型統一模型の枠組みで構成し、その現象論的特性について現在検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに論文として公表した研究成果に加えて、次のような研究を進めている。強い相互作用におけるCPの破れ問題に関しては、自発的CP対称性の破れを想定するNelson-Barr模型とPeccei-Quinn機構に基づくaxion模型を組み合わせた形の模型をPati-Salam型統一模型の枠組みで構築し、模型の現象論的特性について定量的な検討を進めつつある。また、ニュートリノ質量と暗黒物質を関連付けるタイプIII型輻射ニュートリノ質量模型においては、レプトジェネシスが困難な点に着目し、レプトゲネシスを可能とするように最低限の拡張を加えた模型において宇宙のバリオン数生成に関する定量的検討を行っている。これらは、中間エネルギースケールに期待される新物理に関係する典型的事例と考えられ、当該研究課題の研究内容にふさわしいものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで行ってきた研究については、インフレーションとそれに伴う宇宙の再加熱の実現可能性などの視点を新たに加える形で深化させていく。また、ニュートリノ質量生成は中間エネルギースケールに期待される新物理であり、標準模型を超える模型考察の際に重要な足場となるという観点に基づき、各種のニュートリノ質量生成模型において現れる得る新たなニュートリノの相互作用に着目する。それらがニュートリノ振動やレプトンフレーバーを破る現象に与える影響を定量的に評価することにより、実験・観測結果との比較から模型の選択を行う可能性を中心に検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は大学における業務が当初予想していた以上に多くなったため、予定していた旅費等の使用をキャンセルせざるを得ない状況が生じたこと、分担者になっていた他の科研費から本年度経費から使用を予定していた諸経費を賄うことができたことなどのため当該の次年度使用額が発生した。 翌年度分として請求した助成金とあわせた使用計画については、次年度使用額分はこれまで経費節減のため更新を見送っていたPCの更新などに当てることにより、効率的な研究推進ができるよう使用することを予定している。
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