標準模型におけるCP対称性の破れは湯川結合定数の複素位相に由来すると考えられており、CP対称性は標準模型の対称性とはなっていない。CP対称性が標準模型の厳密な対称性であると考える場合スカラー場の真空期待値によるCP対称性の自発的破れによって、湯川結合定数における複素位相の実現と強い相互作用におけるCPの破れの問題のツリーレベルでの回避とが同時にNelson-Barr機構によりもたらされる可能性が生まれる。この可能性を実現するとともに、輻射補正による強いCPの破れの問題の再発を回避するためにPeccei-Quinn機構を用いようとすると、複数の一重項スカラー場とベクトル型フェルミオンを導入することにより標準模型を拡張する必要がある。また、これらのスカラー場が重力と非最小結合を持つならば、宇宙のインフレーションを引き起こすインフラトンとしての役割を果たし、CPの破れとインフレーションが密接に関連する模型を構成することができる。これらの点について具体的な模型を提示するとともに、(1)この模型におけるインフレーションとリヒーティングの特徴、(2)宇宙背景放射の揺らぎに関する観測結果を満たすという条件の下での低エネルギー領域の物理として、小林・益川CP位相の導出とレプトジェネシスによる宇宙のバリオン数生成、についての定量的解析を行った。この解析を通して、新たに加えた場がこれらの物理量の説明において極めて重要な役割を果たすこと、及び、レプトジェネシスにおいては10の9乗GeVより小さな質量の右巻きニュートリノでも十分なバリオン数非対称性をもたらし得ることを示した。これらの研究成果は既に論文として発表され、雑誌に掲載済みである。
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