研究課題/領域番号 |
18K03645
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
國友 浩 京都大学, 基礎物理学研究所, 准教授 (20202046)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 弦の場の理論 / ヘテロ弦理論 / ホモトピー代数 / L無限大代数 |
研究実績の概要 |
2018年度は、巡回的L無限大代数に基づいて、小さいヒルベルト空間におけるヘテロ弦の場の理論を構築した。 ヘテロ弦には、ボソンを記述する Neveu-Schwarz (NS)セクターとフェルミオンを記述するRamond (R)セクターの2つが存在し、完全なヘテロ弦の場の理論では、これらの相互作用を正しく記述しなくてはならない。ヘテロ弦のような閉じた超弦の場合、そのような相互作用はL無限大代数と呼ばれるホモトピー代数の関係式を満たすように構成すれば良いことが知られている。また更に、ゲージ不変な作用を構成するには、このL無限大代数が特定のシンプレクティック形式のもとで巡回的である必要がある。これら関して Erler-Konopka-Sachsらミュンヘンのグループは、NSセクターに限った相互作用を構築する一般的な手法を提案したが、それをRセクターを含む完全な相互作用を構築する手法に拡張することはできなかった。そこで障害となったのが巡回性であることから、研究代表者は大学院生の杉本達哉氏と共同で、彼らの手法を巡回性を尊重する形に修正し、NSセクターとRセクターの両者にわたる巡回的L無限大代数を実現する相互作用を構築する一般的手法を考案し、完全なヘテロ弦の場の理論のゲージ不変作用を与え、物理的な4点振幅を正しく再現することを示すことで、その有効性を具体的に確かめた。 また余準同型写像を用いた弦の場の理論の再定義を行うことで、相補的な定式化である大きなヒルベルト空間に基づくWZW型の作用を与え、独立にそのゲージ不変性を示した。以上の成果は、論文 Heterotic string field theory with L-infinity structure として Progress of Theoretical and Experimental Physics に掲載が決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では、まずは比較的簡単なヘテロ弦の場の理論を構築し、その後、より複雑なII型の超弦の場の理論を構築する予定であった。計画段階では、ヘテロ弦の完全な場の理論の構築だけで1~2年はかかると考えていたので、1年足らずでこれを実現できたことは、想定よりかなり順調な進捗状況と言える。加えてII型の超弦の場の理論に関しても、現在既にほぼ完成と言える段階まで来ており論文の形にまとめているところである。これで全ての超弦の場の理論が完成を見たことになり、かなり早い時期に、計画段階では時間が許せば行うとしていた、超弦の場の理論を用いた種々の解析に移れることが確実になってきた。
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今後の研究の推進方策 |
まずは来年度前半中に現在論文をまとめている II型の超弦の場の理論を完成させる。その後は、実際に完成した超弦の場の理論を用いた超弦理論の解析に移るが、非摂動的な解析以前にも、場の理論を用いて初めて可能となる解析が多々あり、まずはこれらに取り組むことを考えている。具体的には、手始めに、ツリー近似における任意の散乱振幅が、第一量子化で与えられるものと正しく一致することを証明したい。実際、開いた超弦の場の理論においてはKonopkaによってこのような証明が与えられており、これをまずはヘテロ弦、更にはII型超弦に拡張することを試みる。また、我々が構築したII型超弦理論の場の理論のR-Rセクターの運動項は非局所的な形をしているため、その功罪についても色々と考察したい。弦の場の理論はそもそも非局所的なので、正準量子化は行えず、運動項が非局所的でもかまわないと思われるが、どこか思わぬところで問題が起きる可能性も否定できない。 また関連してII型超弦の場の理論でどのようにDブレインとの相互作用が記述されるかについても調べてみたい。運動項の非局所性は、物理的状態が(ゲージ場ではなく)ゲージ場の強さに対応していることからくると思われるため、ゲージ場が直接結合するDブレインとの相互作用がどのように実現されているかは非自明であり興味深い問題である。 その他にも、何が超弦の場の理論でなければできない解析であるか、その中でも何が重要で、実際に解析可能であるかなどを明らかにしつつ解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はセミナーに呼んで最新の成果を話してもらい、それについて議論すべき適当な研究者がいなかったため。
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