研究課題/領域番号 |
18K03646
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
浅川 正之 大阪大学, 理学研究科, 教授 (50283453)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クォークグルーオンプラズマ / QCD / 格子ゲージ理論 / 勾配流法 / エネルギー運動量テンソル / 量子開放系 / 散逸 / 熱平衡化 |
研究実績の概要 |
本年度はQCDの非閉じ込め相における重クォークのまわりのエネルギー運動量テンソル分布をクエンチ近似の下で勾配流法を用いて導出するという研究と、同じく非閉じ込め相におけるJ/ψ、Υなどの(反)重クォーク対状態の時間発展および(反)重クォーク対という相関状態の相対運動の、量子開放系の理論の枠組を用いた研究とを行った。その結果、重クォークのまわりのエネルギー運動量テンソル分布に関しては、QCDの非可換的性質により、QEDの場合には見られない、テンソルの各モードの絶対値の分離などの興味深い現象が現れることを見出し、原著論文として発表した。また、非閉じ込め相におけるJ/ψ、Υなどの(反)重クォーク対状態の時間発展については、初めてカラーの自由度を考慮し、時間発展を記述する際に通常の中間子としての状態であるカラー一重項の他に、カラー八重項の状態も含めて考察を行った。また、現実のQCDの対称性であるカラーSU(3)に加えてカラーSU(2)の場合も考察し、SU(2)の場合にはSU(3)においては存在しないある対称性が存在し、時間発展において重要な働きをすることを発見した。また、非閉じ込め相における(反)重クォーク対の相対運動の熱化の記述においては、その基礎方程式であるLindblad方程式に反跳による散逸の効果を初めて取り入れて計算を行った。その結果、今まで予想されてきたように、散逸の効果により、系は高エネルギー状態のオーバーヒーティングを起こすことなく、近似的に熱平衡に近づくことが判明した。これらについては現在原著論文執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19のパンデミックにより国内学会、国際学会の多くが中止またはオンラインに移行され、それらにおいて予定していた、研究成果の発表および情報の収集が出来ない、あるいは不完全にしか出来なくなるという状況であった。また、海外在住の研究者との共同研究も十分にできない状態となり、それらの結果、予定していたよりも研究の進捗状況は遅れていると言える。当初予定では今年度は研究の最終年度であったが、上記の理由のため申請の上研究期間を一年延長した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、(反)重クォーク対状態の時間発展および(反)重クォーク対という相関状態の相対運動の、量子開放系の理論の枠組を用いた研究について、令和2年度までに得られた結果を出来るだけ早く原著論文として発表する。また、(反)重クォーク対という相関状態の相対運動の熱平衡化については、Lindblad方程式としてpNRQCDによって得られたものを用いて比較を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19のパンデミックにより、予定していた国内学会、国際学会が中止あるいはオンラインに移行されたことにより、予定していた旅費の支出がなくなったため。今後の使用計画は国際的なパンデミックの動向によるが、パンデミックが解消された場合には国際学会に積極的に参加したいと考えている。パンデミックが解消されない場合には意義のある使途にのみ使用する予定である。
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