本研究では非閉じ込め相におけるJ/ψ、Υなどの(反)重クォーク対状態の量子的時間発展および(反)重クォーク対という相関状態の相対運動を、量子開放系の理論の枠組を用いて研究を行った。重クォーク対状態の時間発展については、初めてカラーの自由度を考慮し、時間発展を記述する際に、通常の中間子としての状態であるカラー一重項の他に、カラー八重項の状態も含めて考察を行った。また、現実のQCDの対称性であるカラーSU(3)に加えてカラーSU(2)の場合も考察し、SU(2)の場合にはSU(3)においては存在しないある対称性が存在することを発見した。また、非閉じ込め相における(反)重クォーク対の相対運動の熱化の記述においては、その時間発展についての基礎方程式であるLindblad方程式に反跳による散逸の効果を初めて取り入れて計算を行った。 さらに、QCD相図上にその存在があると期待されている臨界点についての物理的理解の問題点を指摘し、その探索実験において収集されたデータを理解するための前提の変更の必要性を指摘した。まず、第一には現在の実験的理論的解析においては、高エネルギー原子核衝突において保存量揺らぎが化学凍結時にその変化が停止すると仮定されているが、これは運動学的凍結に置き換えるべきである。第二は、保存量(例えばバリオン数)揺らぎの(高次)キュムラントと秩序変数場の相関距離の関係が、平衡状態におけるものが使用されているという点。一般には保存量揺らぎダイナミクスは保存量でない秩序変数場のダイナミクスよりは遅いということが無視されている。最後の論点は、ある運動量空間の領域内で観測されている量が、位置空間で計算されている量と直接比較されているという点である。これは、臨界点探索実験のように比較的低エネルギーにおける原子核衝突では正当化されない。
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