2021年度も引き続き、4次元SU(2)ヤン=ミルズ理論における自由エネルギー密度f(θ)のθ依存性に着目した研究を行った。これまでf(θ)のθ依存性を直接調べることは符号問題に阻まれ不可能であった。その代わり、θ=0の回りで展開した展開係数の各々を数値計算で決定することにより調べられてきた。この方法でもある程度のこと(例えばθ^4の係数が、知られているどのモデルと無矛盾か等)を調べることは可能であったが、結果を信頼できるのはθ<<1の領域に限られるため、例えばf(θ)のθ=π近傍の振る舞いを知ることはできない。そこで、我々は新たにsub-volume法という手法を開発し、どの程度大きなθまで信頼できる計算が可能なのかについての研究を行った。 sub-volume法の要点は以下の通りである。小さい体積では、体積内の位相荷の和(Q_sub)が比較的小さいため、θがπを超えてもf_sub(θ)に比例する量 log[<cos(θ Q_sub)>] が実数となり、f_sub(θ) を計算できる。sub-volumeの無限大極限を取ることにより f(θ) を得るが、この外挿をうまく取れるかは非自明である。実際、臨界温度より上では体積の関数として f_sub(θ) は非自明な振る舞いを示し、信頼できる外挿はできなかった。ところが、T=0の真空では、期待される体積スケーリングを示し、信頼できる結果が得られた。その結果、長年の問題 「SU(2)ヤング=ミルズ理論はθ=πでgaplessのconformal理論になるのか?そしてその点でCP対称性は自発的に破れるのか?」 に対して「CP対称性は自発的に破れる」という結論を支持する結果を得ることができた。この結果については今後も更に精査するが、少なくとも当研究ではこの問題にアタックする有効かつ唯一の手法を開発することに成功したと言える。
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