本研究では、南極長期周回気球に搭載する一次宇宙線測定器により、主にベリリウムの同位体比を精密測定し(HELIX実験)、宇宙線の伝播機構の理論モデルを検証することを最終的な物理目的とする。宇宙線荷電粒子の速度測定装置であるリングイメージングチェレンコフ検出器において、屈折率が1.15~1.16の疎水性シリカエアロゲルのタイル(大きさ10 cm × 10 cm × 1 cm)を32枚用いた輻射体システムの開発に重点的に取り組む計画である。 研究最終年度となる2020年度には、前年度までに製作が完了した32枚のエアロゲルの地上較正(厚さと屈折率分布の精密測定)データの取得を完了し解析を進めた。新型コロナウイルス蔓延の影響を受け、米国内におけるエアロゲルタイルの測定器の組み込み作業は延期しているが、既に噛み合わせ試験は実施済みであるので大きな問題とはならない。また、第二回目のフライトへの追加実装を予定している第二層目となる低屈折率(1.03)エアロゲルの開発を進め、世界最高レベルの透明度を達成するとともに量産性を検証した。さらに、第二回目のフライトにおける第一層目の高屈折率(1.15~1.16)エアロゲルのアップグレード案を検討した。 気球飛翔に必要なヘリウムの世界的な枯渇等の影響を受け、研究計画期間中に予定していた第一回フライトは延期となったが、測定器の準備に技術的な問題はないので、引き続き南極におけるフライトに向けた研究を進めていく。また、気球フライトの機会を増やすため、バックアップ案として北欧での飛翔機会等も検討していく予定であり、実験プログラムを確実に遂行する予定である。
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