研究課題/領域番号 |
18K03668
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹田 敦 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (40401286)
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研究分担者 |
竹内 康雄 神戸大学, 理学研究科, 教授 (60272522)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / バックグラウンド / 放射性不純物 / ラドン |
研究実績の概要 |
2019年度は、昨年度までに日本国内で準備をすすめた高感度水中ラドン検出器を分解した状態でイタリア・グランサッソ国立研究所に輸送した。本検出器を組み込む予定のXENONnT実験サイト(ホールB)内に持ち込み、検出器の組み上げを行った後、まずは空気中でラドン検出器が正常に動作することを確認した。また、ラドン検出器で取得した生データからリアルタイムにラドン濃度(mBq/m^3)を算出し、その値をXENONnT実験におけるスローコントロールシステムに取り込むための準備が進められた。加えて、グランサッソにおいて安全面から課せられる厳しい要求(万一水漏れが生じた際の自動バルブクローズ機構の実装等)を満たすための設計を完了させ、必要となる監視のためのセンサー類や機器等の購入を進めた。 並行して、ラドン検出器によってモニターされる中性子vetoカウンターのガドリニウム水中の放射性不純物が暗黒物質探索実験に与える影響を、2018年度から引き続きモンテカルロ・シミュレーションにより評価した。ラドン検出器でモニターされる放射性不純物は、主にウラン/トリウム系列のラドンであるが、それだけにとどまらずアクチニウム系列の不純物が暗黒部物質探索実験に与える影響の評価も行い、ガドリニウム水中で許される量の上限値についての条件を明確化した。 最後に、将来的にガドリニウム水中の不純物量のさらなる低減を進める際に必要となる、ガドリニウム水中ラドン検出器自身の高感度についての研究を進めた。具体的にはガス中ラドン検出器自身を既存のより高感度なものに更新するとともに、ガドリニウム水からラドンガスを抜き出す膜脱気モジュール自身の低バックグラウンド化や脱気されて出てくるラドンおよびその娘核の高捕集効率化をすすめることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本国内で準備したガドリニウム水中ラドン検出器をイタリア・国立グランサッソ研究所の地下実験サイト(ホールB)に移設する作業は予定通り順調に完了した。ただし、グランサッソ地下サイトにおける近年の安全面についての厳しい要求を満たすために検出器システムの更新を余儀なくされた。一つは、サンプル水を検出器内に引き込む配管について日本国内で広く使用していたシンフレックスチューブが認められなかったため全てステンレス製配管への変更が必要となった。さらに、ガドリニウム水からラドンを抜き出す膜脱気モジュールのアクリル製ハウジングからガドリニウム水が万一漏れた場合に、配管に配置されたバルブを自動的に閉鎖させる機構の設置を求められた。以上の改良のための設計を完了させ必要となる機材の購入を進めた。ただし、年度末に発生した新型コロナウィルスの影響で、現地に移動して実際に検出器を改良する作業までは進められなかった。これについては、必要な機材及びシステムが日本国内で完了しているため、現地への出張が解禁されれば、すぐに完了させされる見込みはできている。 一方、検出器で取得した生データからリアルタイムにラドン濃度値(mBq/m^3)へ変換するプログラムおよびXENONnT実験全体のスローコントロールシステムからその値を取り込むためのプログラム等は全て実現され、これまでに行ってきたシミュレーション結果に反映させることで、暗黒物質探索データにガドリニウム水中ラドンが与える影響を評価することが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
現在禁止されているイタリア・グランサッソ国立研究所への出張が認めらるようになったら、ラドン検出器へ追加で必要となった安全面での施工を迅速に行う。現時点で、必要な全ての機材の準備および動作確認等は日本国内ですでに完了しているため、技術面での不確定要素は無い。その後、実験サイトにおける中性子カウンターの設置に合わせて、ラドン検出器の接続を行い、取得したデータをリアルタイムにラドン濃度値(mBq/m^3)に変換しXENON実験のスローコントロールシステムを通して暗黒物質探索データへの反映を行う。そこから、これまでに継続して開発してきたシミュレーションコードを用いて、実測されたラドン濃度が暗黒物質探索に与える影響の評価を行い、暗黒物質探索データの解析に用いることで、世界最高感度での暗黒物質探索を推進する。 以上の実現のためには、シミュレーションの高精度化および系統誤差の理解が欠かせない。中性子カウンターの設置後に、レーザーや放射性線源を駆使したキャリブレーションランを実施し、中性子カウンターの内壁に敷き詰められた反射材の反射率、ガドリニウム水中のチェレンコフ光に対する散乱・吸収長などのパラメータのチューニングを徹底して進める。中性子カウンターを構成する光電子増倍管の1光子検出応答性能やダークレートの影響評価なども重要となる。 また、将来の検出器高感度化にむけて、ラドン検出器の改良を継続し、濃縮法を用いないリアルタイム方式の静電捕集型水中ラドン検出器としては世界最高となる 1 mBq/m^3 以下の感度達成に向けての研究を推進する。
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