研究課題/領域番号 |
18K03671
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
苔山 圭以子 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (00753617)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | detchar / 重力波検出器特性評価 |
研究実績の概要 |
2018年10月に、Dr. McLeod (Cardiff University) を招聘し、 “LIGO Summary Pages” をKAGRAへ導入した。Summary Pagesは、pythonベースで webブラウザをインターフェイスとした大型重力波検出器の特性評価のために開発されたツールである。Summary Pages は重力波検出器を構成するさまざまなサブシステムのデータを取得し、サブシステムそのものや、それをとりまく環境情報(地震や、音響ノイズなど)を一目でわかるようにディスプレイすることができる。今回、KAGRAの検出器特性評価のために、Dr. McLeodと数名のKAGRAの研究協力者とともに、複数のサブシステムを表示するSummary Pagesをセットアップし、検出器特性評価のベースが完成させた。
重力波検出器には、グリッチとよばれる突発的なノイズが起きることがある。グリッチは、超新星爆発からのバースト的な重力波信号と類似しており、ノイズによるグリッチはあらかじめ特定し重力波探査の際に除外しなければならない。可能な場合はグリッチの原因を特定し、ノイズ源を除外する。このようなグリッチを探索するツールとして、欧州のプロジェクトVIRGOから、Omicronというソフトウェアを導入した。Omicronではグリッチのあった時間やグリッチの大きさなどを特定することができ、さらに、Summary Pages にweb ブラウザをインターフェイスとしてグリッチ探索の結果を表示させることができる。この機能を用いて、Pre-Stabilized Laser システム (安定化されたレーザー光源) の検出器の特性評価を行った(日本物理学会秋季大会で発表)。地震によるグリッチ、電気的なグリッチを特定することができた。今後はグリッチ源の特定を自動化する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、検出器診断システムのプラットフォームとして、Dr. McLeod の協力を得てSummary Pages の導入を完了した。さらにKAGRAの研究協力者とともに、サブシステムごとのSummary Pages をセットアップし、検出器診断のベースを構築した。さらに、グリッチ(突発的なノイズ)を特定するソフトウェア Omicronを、欧州のVIRGOプロジェクトの協力により導入した。現在は、研究協力者とともにその他の検出器診断用ソフトウェアなどをテスト中である。
最初の検出器(サブシステム)診断として、すでに稼働しているPre-stabilized Laser の診断を行った。今回は、すでにインストール済みのOmicronとSummary Pagesを用いてグリッチの分類を行った。Omicronで特定されたもっとも大きなグリッチを選び、地震計、 加速度計(レーザーが設置されている定盤に設置されている)、マイクロフォンとの相関を調査した。いくつかのグリッチは小さな地震が原因であることが特定された。また、加速度計との相関のあった短くシャープなグリッチは、定盤の加速度の変化では説明がつきにくいため電気的なグリッチが起きていると結論づけた。また、フォトディテクターの飽和によるグリッチも見つかった。今後は、ノイズ源特定のプロセスを自動で行えるようにする。また他のサブシステムについても同様の性能評価を行う。グリッチはデータベースに登録しておき、重力波探索の際に参照できるようにする。
データクオリティフラッグについて、研究協力者と議論を行い、方針を決定した。重力波観測ネットワークのLIGO, VIRGO との互換性を保てるフラッグ様式(ステートベクター)にすることに決定した。現在検出器の制御モデル上でステートベクターを生成するシステムを構築中である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きサブシステムの稼働状況の診断を行う。2018年度にはPre-stabilized laser (PSL) の診断を行い、グリッチが何に起因するかを調べたが、グリッチと他チャンネルとの相関を特定する作業は手動で行った。これをノイズ源特定の正確さは失わずに、自動化する必要がある。また、グリッチ以外にも、ラインノイズといわれる、特定の周波数にのみ現れるノイズを特定するソフトウェアを導入する。ラインノイズは、中性子星連星やブラックホール連星が連続的に発する重力波信号と類似しており、ノイズ由来のものは特定して重力波探査から除外しておく必要がある。ラインノイズを特定するソフトウェアは現在研究協力者によってテスト中である。テストが完了すれば、グリッチ診断のときと同様に、まずはPSLにおいてノイズ源の特定を行う。さらに、このような調査を、その他のさまざまなサブシステムとメイン干渉計について行う。さらに、グリッチやラインノイズをデータベース化し、重力波チャンネルを解析する際にこのデータベースを参照できるようにする。
重力波観測の際に重力波チャンネルを解析するためには、データクオリティフラッグの生成が必要である。データクオリティフラッグは、検出器の稼働状況の良し悪しを示す情報であり、重力波チャンネルを解析する際に不可欠である。前述の、ノイズ源が特定されているかどうかも情報に含まれる。本研究では、研究協力者と議論の上、LIGOとの互換性を持たせるためLIGOのステートベクターとよばれる形式でフラッグを生成することに決定した。重力波チャンネルの解析はほぼリアルタイムで行われるため、フラッグもリアルタイムで生成しなければならない。そのために、検出器のリアルタイム制御システムを利用し、独自のフラッグ生成システムを構築する。現在試作中であり、テストを経て2019年の後半には実用化する。
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