研究課題/領域番号 |
18K03675
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
戸本 誠 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (80432235)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / トリガー / 機械学習 |
研究実績の概要 |
LHC実験などの最先端加速器実験において、より発見感度の高い新物理探索を行うために、さらに高輝度、高エネルギーなハドロン加速器を用いた素粒子実験が不可欠である。こうした実験の成功は、興味ある物理事象とともに増大する背景事象をより強力に削除する究極的なトリガー技術の開発が急務である。本研究は、FPGAなどを駆使したハードウェアトリガーに、近年急速に発達しているDeep Learning などの機械学習を積極的に取り入れた「AIトリガー」を将来加速器実験に新しく導入することを目的にする。 第1段階として、高輝度LHC実験のトリガー性能の向上を目指し、"Track Fit Trigger" によるμ粒子トリガーアルゴリズムを完成させた。高い運動量のμ粒子を含む事象を高い検出効率を維持しつつ、高輝度LHC実験のデータ収集頻度でデータ収集が可能であることを示した。さらには、様々なμ粒子飛跡の位置、運動量を想定して予め準備したヒットパターンのリストから通過したμ粒子の位置、運動量、および、それらの精度、信頼度を計測し、高運動量μ粒子の存在を判断するアルゴリズムをXilinx社のUltraScale+ Vritex FPGA搭載のテストモジュールを用いて構築した。これにより、"Track Fit Trigger" によるμ粒子トリガーアルゴリズムが現実的であることを示すことができた。 第2段階として、画像処理では常識的に用いられ、かつ、高エネルギー素粒子実験分野の荷電粒子のオフライン飛跡再構成で も頻繁に採用されるHough変換を使ったμ粒子トリガーアルゴリズムの開発を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の第一段階として掲げてきた、"Track Fit Trigger" によるμ粒子トリガーアルゴリズムを完成させることができた。このアルゴリズムの定量的な評価を行い、"Track Fit Trigger" によるμ粒子トリガーアルゴリズムの潜在的性能を明らかにした。さらには、Xilinx社のUltraScale+ Vritex FPGAにその論理回路を実装し、ハードウェア上で"Track Fit Trigger" を実現できることを示した。以上の結果は、日本物理学会などで報告した。これにより、本研究の前段階の研究を順調に終えたことになる。 本研究の第2段階として、Hough変換を使ったトラックトリガーアルゴリズムを新しく開発することができた。その性能評価は次年度以降の研究に譲るが、具体的な性能評価を行うための基礎研究を終えることができ、日本物理学会などで報告している。 以上の観点から、概ね順調に研究が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
Hough変換を使ったトラックトリガーアルゴリズムの定量的な性能評価を実施する。 次に、機械学習の実行のために、並列計算を得意とするGPUを搭載したハイパフォーマンス計算機、Deep Learningなどの機械学習が動くソフトウェアの購入と設置を行う。本研究により、シミュレーションやこれまでに収集したLHC実験データを駆使して、興味ある物理事象による高運動量μ粒子飛跡による検出器ヒットパターンの傾向をDeep Learningで学習させる。より具体的には、信号と背景事象との選別能力の高いアルゴリズムを導出するために必要な入力情報、ニューラルネットワークの中間層の数などの最適値を割り出す。最終的には、高輝度LHC実験で実現予定の"Track Fit Trigger"と、新しく構築した「AIトリガー」の性能比較を行い、「AIトリガー」の将来性を追求したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は研究室既存の評価回路モジュールや計算機資源を用いた研究により研究成果が出ることがわかった。2019年度は、次年度使用額と2019年度分として請求した助成金の総額を大規模FPGA搭載のモジュール、または、GPU搭載の計算機システムの購入と海外共同研究者との研究打ち合わせのための海外旅費として使用する予定である。
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