研究課題/領域番号 |
18K03678
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
山内 誠 宮崎大学, 工学部, 教授 (80264365)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Be X線連星 / X線観測 / 可視光観測 / 自動観測システム |
研究実績の概要 |
国際宇宙ステーション搭載全天X線監視装置MAXIの観測データから、R2年度は主に以下の研究を主なった。一つは、5つのBe X線連星について令和元年度に定量的に解析し確認した中性子星磁極付近のサイクロトロン共鳴エネルギーとX 線光度との関係に対する詳細な再解析である。R2年度にはX線バックグランドをより詳細に検討し、再解析したところ、サイクロトロンエネルギーは前回の結果よりも狭い光度範囲で同程度の変化をしている事が分かった。次に、Be X線連星A0535+262が2020年11月に起こしたジャイアントアウトバースト中のX線スペクトル変化に対する調査である。ジャイアントアウトバースト時のX線スペクトルには黒体放射線分が見られ、増光時には黒体温度が高く、アウトバーストの経過とともに温度が低下していくことを見出した。このことは、増光開始時は中性子星周辺の降着円盤密度が低い状態でガスの降着が起こるため、降着円盤内縁温度が高くなり、さらに降着円盤の密度が増加することで光度は上がるが、その後、降着してくるガスは密度の増した円盤内でエネルギーを失うため降着円盤内縁温度が下がるということを示している可能性がある。ただしこの解釈については、さらに観測例を増やして確認する必要があると考える。 A0535+262については静穏時からも可視光観測も継続しており、2020年のジャイアントアウトバーストの400日以上前から可視光が減光している事が分かった。これは過去のジャイアントアウトバーストも可視光の減光段階で起こったと報告されており、この関係を確認できたことになる。また、X線データと比較することで、可視光の減光期間の長さとジャイアントアウトバーストの規模には正相関があることも分かった。 可視光観測の自動化については、夜間の入構制限のため調査が大幅に遅れ、最終調整の方向性を決定することにとどまった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
Be X線連星のX線による観測結果の解析は、開始が遅れたものの順調に進めることができ、中性子星磁極付近のサイクロトロンエネルギーとX線光度の関係について、より正確に定量化できた。また、X線スペクトル変化を降着円盤の変化と関連付けて議論できる可能性についても見出すことができた。ただし、これらの結果については国内外の研究者との議論も必要であるが、令和2年度は教育負担の大幅な増加や国際会議等の中止などにより、対面での議論が不十分となり研究の進捗において若干の遅れが生じている。 可視光での観測については、昨年度までは発生時期がある程度予測可能なノーマルアウトバーストのみの観測であったが、令和2年度は発生時期が予測できないジャイアントアウトバーストの観測を行うことができ、Be星の質量降着による星周円盤の変化と中性子星周辺の降着円盤の変化の関係について調査することができ、順調に進めることができた。 一方、口径50cm望遠鏡による自動観測化に向けて実施予定であった、観測を基にした制御精度の調整は、年度頭書に終える予定であったが、作業開始可能時期が大幅に遅れたため、今後も継続して行うこととなった。 以上の状況、および本研究の終了年度を1年間先送りにしたことから、遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、基本的には令和2年度に予定していた内容について実施することになる。 具体的には、口径50 cm望遠鏡による可視光自動観測システムの詳細な調整作業において、調整パラメータ決定に必要なデータのうち不足分を取得し、年度内の早期に本格的な自動観測を開始するともに、半自動、手動観測も行いながらブラックホール連星やBe X線連星の可視光フィルター観測を継続する。 即時観測を担う口径30cm望遠鏡システムでは、LIGO/Virgoの試験観測によって発見される重力波イベントや稼働中の人工衛星によって発見されるガンマ線バースト、X線増光天体について可視光観測を継続して行う。 X線領域の観測については、国際宇宙ステーション搭載全天X線監視装置MAXIが今年度も稼働を続けるので、それによって発見される突発現象の解析を行い、可視光観測と合わせた二つのエネルギー帯域における光度変化、およびスペクトル変化を調査することで解析例を蓄積し、これらの物理的関係について検討する。 このように、観測によって得られるデータをより早く解析するための自動解析の整備も進めながら、得られた解析結果をもとにMAXIチームを主とする他研究者との議論を通じて研究成果をまとめていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた主な理由は、昨年度開催予定であった国際会議が本年度に延期となったものの、最終的にはコロナ禍のために中止となったこと、機器の保守のために発注はしたものの、メーカーにおいて、やはりコロナ禍の影響で部品調達が滞り、今年度中の納品ができなかったことである。このほか、研究者自身がオンライン講義の準備のために教育業務が極端に増加し、研究へのエフォートが大幅に低下したことから、他研究者との打ち合わせや機器の保守作業が遅れてしまったことがあり、途中から計画を変更し、本年度予算を全て次年度に回すことで、次年度の計画をスムーズに進めるようにしたためである。 このため次年度の使用計画としては、基本的には本年度と同じであり、物品費、その他としては、CCDカメラ、コンピューター、観測システムなどの機器保守に使用する予定である。また、オンライン開催の学会参加費や対面実施可能であれば、データ解析について直接議論したり研究会に参加したりするための旅費として使用することを計画している。
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