研究課題
R3年度は、国際宇宙ステーション搭載全天X線監視装置MAXIの観測データを用いたBe/X線連星パルサーGRO J1008-57の解析から、10-20 keVのパルス形状はX線スペクトルの光子指数に依存しており、これは中性子星の磁極付近に形成される降着カーテンによるX線の吸収で説明可能であることを示した。また、2-4 keVのパルス形状がX線強度に依存しており、これは中性子星への質量降着率によりビーム形状が異なるという降着柱のモデルによって説明可能であることが分かった。しかし解析結果からは、モデルで予想される光子指数とX線強度の関に相関が見られなかったことから、降着中モデルに降着カーテンによる高エネルギー帯域の吸収を加える必要がある事が分かった。Be/X線連星の可視光観測については、A0535+262を2021年3月29日から2022年1月3日、V0332+53を2021年9月30日から2022年1月12日、4U 0115+63を2021年8月25日から2022年1月18日の期間観測し、これらのデータと、これまでに観測したデータ、および過去のX線データを使って解析した。その結果、4U 0115+63のBe星の星周円盤はジャイアントアウトバースト後に一度消失もしくは縮小し、新たに形成され始めた状態であること、A0535+262が2020年に起こした最大規模のジャイアントアウトバーストでは星周円盤の消滅には至らなかったこととX線増光の総フラックスとVバンドフラックスの減少量に正の相関があることを確認した。一方、V0332+53は、2016年12月以前にはBe星の星周円盤が成長し、ほぼ近星点ごとにX線増光を起こしていたものの、それ以降は星周円盤が十分に成長しなくなったが、中性子星の近星点通過ごとに星周円盤ガスが剥ぎ取られてるため、円盤が縮小し続けている可能性の高い事が分かった。
3: やや遅れている
これまでに行ったBe X線連星のX線による観測結果の解析は順調に進めることができており、中性子星磁極付近のサイクロトロンエネルギーとX線光度の関係について、いくつかのサンプルについては定量化できた。また、X線スペクトル変化を降着円盤の変化と関連付けて議論できる可能性についても見出すことができた。さらに、X線スペクトル、パルサー成分のパルス形状、およびX線強度の間の関係についても説明可能なモデルを検討し、中性子星磁極付近のガス降着の様子を説明することができた。以上のように多くの成果を得ており、国内外の研究者との対面も含めた密な議論をする段階まで進めることができた。可視光での観測については、これまでの発生時期がある程度予測可能なノーマルアウトバーストや発生時期が予測できないジャイアントアウトバーストの観測に加え、X線増光を伴わない静穏期の観測も行い、さらに過去の可視光やX線のデータと組み合わせることで、Be星の活動性と星周円盤の成長の関係や、星周円盤の変化と中性子星への質量降着との関係についての解釈を順調に進めることができた。また、口径50cm望遠鏡による自動観測化については、観測作業そのものの自動化を大幅に進めることができ、あとは導入精度の向上を継続していく状況である。一方、口径30cm望遠鏡による自動観測については、架台部の故障により実行できておらず、修理を含めた整備が必要である。本研究の終了年度をさらに1年間先送りにした主な要因は、対面も含めた密な議論ができなかったことであり、データ解析や観測自動化の進捗状況から、やや遅れていると判断した。
令和4年度は、これまで行ってきたX線観測と可視光観測を継続し、サンプル数を増やしていくとともに、観測システムもさらに整備していく。具体的には、口径50 cm望遠鏡による可視光観測においては、これまでBe/X線連星において見つかってきたBe星星周円盤の成長とX線増光との関係に対するサンプルを増やしていくとともに、ブラックホール連星の可視光変動の探索も行い、中性子星とブラックホール連星における可視光増光の共通点や相違点を探る。また、この望遠鏡を用いた可視光自動観測システムについては、観測準備に対する精度の向上を進めていく。なお、これらの観測やシステム整備については、既存のコンピューターを利用して進めていく。即時観測を担う口径30cm望遠鏡システムは、現在、架台の制御回路が故障しているため、これを早期に補修する必要がある。これには若干の予算を使用することになる。補修後は当初の計画通り、LIGO/Virgoによって発見される重力波イベントや稼働中の人工衛星によって発見されるガンマ線バースト、X線増光天体について可視光観測を継続して行う。X線領域の観測については、稼働を続けている国際宇宙ステーション搭載全天X線監視装置MAXIによって発見される突発現象の解析を行い、可視光観測と合わせた二つのエネルギー帯域における光度変化、およびスペクトル変化を調査することで解析例を蓄積し、これらの物理的関係について検討する。令和4年度は、特にこれまでの解析結果をもとにMAXIチームを主とする他研究者との対面での議論を深める予定であり、そのための出張旅費を計上している。
当初から計画していた議論、特に解析手法に関する具体的な手法に関しては、実際に対面で解析状況を確認しながら共有するする必要があるが、令和3年度も年間を通して県外出張の自粛が要請されたため、途中から計画を変更し、令和3年度予算のうち、対面での議論に必要な旅費を次年度に回すことで、次年度の計画をスムーズに進めるようにしたことが、次年度使用が生じた主な理由である。したがって次年度は、基本的にはデータ解析について直接議論したり研究会に参加したりするための旅費として予算を使用するが、観測システムの機器保守にも若干の予算を使用する計画である。
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