研究課題/領域番号 |
18K03680
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
渋谷 寛 東邦大学, 理学部, 教授 (40170922)
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研究分担者 |
小川 了 東邦大学, 理学部, 教授 (10256761)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | コンパクト・エマルション・スペクトロメーター / タウニュートリノ / 原子核乾板 / 磁場 |
研究実績の概要 |
我々は金属板・原子核乾板の交互積層検出器ECCとコンパクト・エマルション・スペクトロメーター(CES)を組み合わせたニュートリノ検出器を磁場中に設置し、正・反タウニュートリノ反応を分離して詳細に研究する実験(SHiP)を提案している。タウニュートリノ反応の基本的な性質を調べ、レプトンセクターにおける対称性、普遍性を精査する。本研究はこの研究に必要不可欠なCESの実用化を推進する。CESは3層の原子核乾板フィルムを1Tの磁場中に15mm間隔で配置した薄い電荷分離・運動量測定装置である。このCESの原理はすでに我々の先行実験で実証済みであるが、小面積フィルム、ほぼ垂直なビームの場合に限られていた。そこで実用化を目指し、標準サイズ(100mm*125mm)のテスト用CESスタックを4個製作し、欧州原子核研究機構CERN の1~10 GeV/c ハドロンビームを照射した。原子核乾板は、比較のため、3種類のベース素材(ポリスチレンシート、アクリル板、ガラス板)を使用した。CESスタックは厚さ15mmのロハセル板を低密度物質としてフィルム間に挿入してバネで押さえつけた構造体と、ガラス乾板を15mm間隔のスリットに挿入して空気ギャップを作った構造体の2種類である。ビーム照射終了後、原子核乾板の現像、膨潤、高速飛跡読み取り等、一連の作業を行い、その後に解析を開始した。まず磁場ゼロで照射した10 GeV/cのビーム飛跡を用いて原子核乾板同士の相互位置・角度の較正(アラインメント)を行い、続いて1T磁場中でのビーム飛跡を再構成して、ビーム飛跡群のサジッタを計算し、照射したビームの運動量から予想されるサジッタと比較した。その結果、CESスタック内の3枚の乾板のお互いの位置関係、回転角度、距離、傾き、伸縮、平面性、そしてCESとして使用したときの性能、すなわち電荷符号識別性能などがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本実験で新たに得られた知見を以下にまとめる。 1)ベース素材としては、ガラス板が平面性の点で最も優れていることがわかった。さらにガラス板の熱膨張係数が小さいことを考慮すると、CES用ベース素材としての性能では、ガラス板が最適である。ただし、割れやすいため、取扱いには注意を要する。 2)磁場ゼロでの10GeV/cハドロンビームの照射では、垂直なビームの場合、サジッタ分布の幅は1μm程度であった。1Tの磁場を印加した場合に期待されるサジッタ値3.6μmと比較すると約3σの識別性能があることになる。このことにより、運動量測定可能領域が10GeV/cまで拡張できることがわかった。 3)1T磁場中の1~6 GeV/cハドロンビームの照射では、垂直なビームの場合、どちらのCESスタック構造でも3σ以上の識別性能をもつ解析可能面積を60平方cm程度まで拡張できた。 4)一方で、大角度(tanθ= 0.3)ビームの場合、サジッタ分布の幅は大きくなり、電荷識別性能は約2σ程度となった。これは乾板の平面性が広い範囲で十分に保証されていないためと考えられる。実際、空気ギャップ型のガラス乾板の中央部分で折れ曲がるようなたわみが生じていることもわかった。平面性の良い原子核乾板の製作と歪みや折れ曲がりなどの変形を引き起こさない新しいCES組み立て法、構造体の開発が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
ガラスベースの板の厚さを200μmから500μmに変更した乾板を製作し、新しいCES構造体を用いてテスト用CESを構築し、宇宙線の照射実験を実施する。その結果によって、更なる改良を行い、実用型CES組み立て法、製造法の確立を目指す。 ニュートリノ反応生成プログラム GENIEを用いてタウニュートリノ反応・反タウニュートリノ反応を生成し、製作したCESのタウレプトン崩壊娘粒子検出効率や電荷符号識別性能を見積もるとともに、物理の研究目的により適したCESの構造を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由 ビーム照射実験の結果、CES用ベース素材としてはガラス板が最適であることがわかった。さらに構造体としては空気ギャップ方式が優れていることがわかった。しかし、前回のスリット型空気ギャップ方式ではガラス乾板が折れ曲がるようなたわみを生じていることもわかった。そこで、急遽次回の宇宙線照射実験ではそのような変形を引き起こさない新しいCES組み立て法、構造体の設計を慎重に行い、新しい構造体ケースを製作した。結果として新しい構造体ケースの設計・製作に時間がかかり、準備していた宇宙線照射実験全体は次年度実施となった。そのための消耗品費、HTSでのスキャンニング・データ取得のための出張旅費等、次年度に繰り越すことになったため、次年度使用額が生じた。 使用計画 新しいCES構造体ケースの製作は完了したので、これに厚く強度を増した新しい原子核乾板を挿入して、組み立て、宇宙線照射実験を実施する。その後、速やかに原子核乾板の現像、高速スキャンニングを行うなど、研究を継続する。繰越金は2019年度の研究費と合わせ、現像用試薬等の消耗品の購入、原子核乾板の高速スキャンニングのため名古屋大へ出張するための旅費や成果発表のための学会出張旅費などに使用予定である。
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備考 |
https://gyoseki.toho-u.ac.jp/ https://www.toho-u.ac.jp/sci/ph/lab/
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