2015年の重力波初検出以来、重力波天文学は急速な発展を見せている。今後、重力波天文学を更に進展させていくためには、重力波検出器の高感度化を行い、より多くのイベント検出と、方向決定精度の向上を図っていく必要がある。 重力波検出器の感度を制限する支配的な雑音の一つが熱雑音である。これを低減するため、日本の重力波検出器KAGRAや、現在計画中の次世代重力波検出器では、鏡を低温に冷却する。しかし、低温での鏡のコーティングの振る舞いや、表面に形成される吸着分子層の性質は、よく理解されているとは言い難い。本研究では、低温に冷却可能な折返し型光共振器を用いて、低温における鏡表面薄膜の性質解明に向けた研究を進めてきた。 次世代重力波検出器では、波長1.5ミクロンから2ミクロンのレーザー光が用いられるが、我々は理論計算から、これらの波長では冷却によって鏡表面に吸着される水分子の吸収が大きく、冷却が阻害される可能性を示した。さらに、我々の折返し光共振器を用いて、低温吸着分子層の1.5ミクロンレーザーに対する吸収係数を実測することに成功した。 低温に冷却した鏡の表面には、時間とともに吸着分子層が徐々に形成されていく。光共振器のフィネス変化を測定することで、光学ロス=分子層による吸収量を測定することができる。同時に、折返し共振器では2つの偏光に対する折返し鏡の反射位相が異なり、その差は分子層の厚みに応じて変化することを利用して、形成された分子層の厚みを求めることにも成功した。これによって、吸着分子層の厚みあたりの吸収係数を求め、アモルファス氷の文献値とほぼ同等であることを確認した。 本研究の結果、シリコン鏡を用いた次世代重力波検出器では、低温バッフルの追加による吸着層の形成抑制、CO2レーザーを用いた吸着層の加熱脱離などの対策が必要であることが示された。
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