研究課題/領域番号 |
18K03682
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
大山 雄一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (30213896)
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研究分担者 |
山田 善一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (00200759) [辞退]
石田 卓 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 講師 (70290856)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | J-PARC / ニュートリノ / トリチウム / ベリリウム / マンガン / 大強度陽子ビーム |
研究実績の概要 |
J-PARCニュートリノビームラインにおいて、ビームライン機器の冷却水は、ビーム運転を継続するにつれて高濃度の放射能を含むようになる。これはビームにより生じる中性子が冷却水中の酸素原子を破壊することによるものである。また、冷却水配管から冷却水に溶け出した鉄破壊起源の放射能も冷却水中に留まり、冷却水の放射化の一因である。これらの放射能は安全なビーム運転のために効率よく除去する必要がある。 2021年度は、2020年度と同じビーム強度約510kWでの運転が継続された。2021年のビームは2021年3月から4月の短い期間のみで、年間総陽子数は1.79E20POT (proton on target)であった。これはビーム時間を1.0E7秒に換算すると87kW相当のビーム強度に匹敵する。いままで一番ビーム量が多かった2017年秋から2018年初夏までの1シーズンの9E20POTに遠く及ばない。50GeVシンクロトロンの大強度化による長いシャットダウンによりビーム時間が少なかったためである。いまだに最初の目標とするビーム強度750kW、年間16.8E20POTの半分に満たない。さらには将来計画として見据えている1300kWには程遠い状態である。 冷却水中の放射能のうち、当初大きな問題は7Beの除去であった。2021年度は、一昨年度と昨年度に引き続き、一般排水中に全く測定できないレベルまで減らすことに成功した。除去率は99.99%以上である。7Be除去の方法は完全に確立された。一方、有意な量の54Mnが排水中に含まれているという指摘を昨年に引き続き受けた。54Mnの除去はイオン交換樹脂通水時間を増やすことによって解決できるとは考えられる。これは今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1年間のビーム強度x運転時間は87kWx1.0E7相当であり、目標の750kWx1.0E7相当に達していない。したがって大量の7Beが生じた時の対処方法という本研究の目的に合致したビーム量を得るに至っていない。しかしながら、冷却水中の放射能のうち7Beについては既に目途が立っており、残る課題はイオン交換樹脂通水システムの大量の放射能除去後のメンテナンスだけである。 ニュートリノビームライン鉄壁からのトリチウム流出については、いろいろな検討がなされた。鉄板からのトリチウムの流出はトリチウムが鉄板の中をどの程度の速さで移動するかを示すパラメータ(diffusivity)と、金属表面に達したトリチウムがどの程度鉄板と接する水・水蒸気との間で水素-トリチウム交換を行うチャンスがあるかを示すパラメータ(solubility)に依存する。鉄板から流出するトリチウムは、今後ビームライン構造体を鉄以外の金属で作ることは現実的ではないので、鉄以外の金属で鉄表面をコーティングする可能性が考えられる。さまざまな金属で鉄板片をコーティングした試料をビームに曝し、それから流出するトリチウムを測定することを検討しており、パイロット的な試みとして2021年のビーム運転ではターゲットステーションのヘリウム容器下流でビームに曝したサンプルを作った。今後このサンプルを解析を進めたい。 残ったもう1つの懸案は3Hの処理である。ほとんどの3Hは希釈排水タンクを用いた一般排水により処理を行ってしている。2021年度は3平日に1回の排水を20回行い、タンクローリーによる放射化水引取も加え56GBq相当の3Hを処理した。処理能力の限界に対応するため、ニュートリノ第2設備棟を増設して、252m^3の希釈排水タンク2基が完成した。現在このタンクの運用の詳細を検討しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
ハイパーカミオカンデ実験が建設中である。ニュートリノビームを供給する側の充実という点でニュートリノビームラインの放射線問題も重要性が増しつつある。トリチウムの処理については、2つの点において新たな局面を迎えている。 1つは2021年度末に完成した252m^3の希釈排水タンク2基の運用である。これにより、放射化水の処理能力は大幅に増強される。しかしながらこれを実際に運用するにあたっては排水サイクルや放射能測定手順等、さまざまなシステムやメンテナンスの問題があり、これらを解決して放射化水を確実に処理するためにトリチウム処理についてさまざまなノウハウの提供することが今後の大きな課題である。 今後の研究のもう1つの大きな柱は鉄板からの水や空気へのトリチウム流出問題である。これについては、FermilabのニュートリノビームライングループのNUMIやLBNF計画とも問題を共有している。鉄板・酸化被膜のついた鉄板・アルミ板をニュートリノビームラインでビームに晒した後に回収した。これを水に浸してトリチウムの水への流出を測定する予定である。この測定で水へのトリチウム流出の有意な測定結果が得られるようであれば、引き続き別の金属でコーティングした鉄板等を用いてトリチウムの流出測定を行う予定である。一方、放射化水の取り扱いの制御系が古くなっており更新の必要がある。放射化空気のモニタや管理も含めて制御系のシステム更新のための研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
年間のビーム強度x運転時間は23kWx1.0E7相当であり、目標の750kWx1.0E7相当に達していない。これにより、研究費の使用額を想定よりも少額になった。研究の軸足がベリリウム除去からトリチウム対策に移ってきている。特に鉄板からのトリチウム流出、その促進もしくは抑制がを金属試料を用いて測定することが新たな課題としてクローズアップされており、研究費使用計画もこれに合わせて若干の修正を考えている。
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