研究課題/領域番号 |
18K03683
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
足立 一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (00249898)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光検出器 / シングルフォトン |
研究実績の概要 |
本年度は初年度として、以下のことを実施した。(1) 新型光検出器プロトタイプの形状などのパラメーターの最適化をシミュレーションを用いて行う、(2) プロトタイプ製造を行い、その性能試験を行う、の2点である。 今までに得られたプロトタイプの測定結果がシミュレーションが再現するように内部変数の精度向上を行なった。これによってシミュレーションの信頼性があがり、詳細まで設計に用いることができるようになった。その後、真空管内部に設置する電極の位置について、光電面で発生した光電子が効率よく2x2のアレイで構成されるMPPCに入射するように、電場を計算し光電子の飛跡をトレースし、最適な場所を求めた。また、電場は電極に印加する電圧によって構成されるが、この電圧ができるだけ低くなるように電位を変化させて、入射効率を計算した。このように最適化された設計をもとにプロトタイプの製造を行なった。ここでは、最初に光電面を作成するため活性化を行い、真空管内にアルカリイオンを入れるが、このステップがMPPCに与える影響を調べた。活性化前後でMPPCの漏れ電流の増加することが判明した。これはアルカリイオンがMPPC表面に付着することで起こると予想される。ただし、MPPCとしての動作については問題ないということがわかった。今回の製造ではアルカリができるだけMPPCに当たらないこと及び光電面に一様に付着するように拡散する構造をもうけた。このような予備試験を実施した後、プロトタイプ製造を開始した。現在プロトタイプが完成したところである。初期のチェックでは、MPPCの動作も問題ないと考えられている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に示されるようにプロトタイプ完成まで初年度で達成できたことは計画が順調に進んでいることを示す。ただし、製造までに、予想よりやや時間がかかってしまったことがあげられる。特に、シミュレーションコードの改善に予想以上に時間を費やした。これはテストすべきコード内の変数が複数あるため、その一つひとつについてトライアンドエラーを繰り返さざる得なかったことにある。今回は時間がかかってしまったが、今後はこの精度向上されたコードをそのまま使用できるので、時間を短縮できるのではないかと考えている。また、プロトタイプ作成前の予備実験は、当初は予定してなかった。製造を依頼する会社の担当者及び半導体検出器の専門家と意見交換を行ったところ、全く同じセットアップではないが、APDなど半導体にアルカリ活性化を実施すると、その表面にある程度の影響があることが判明した。バイアス電圧に対して漏れ電流が増加があり、APDの表面に処理を施すなどの話し合いがされていたことが紹介された。当然これはアルカリの量に依存するため、できるだけ光電面構成に必要最小限にした方が良いなどの経験を学ぶことことができた。これにより予備試験実施を決定した。これは結果として非常に有効であった。実機製作前に、アルカリによるMPPCへの影響がわかったため、製造過程の中で活性化プロセスにアルカリ付着をできるだけ少なくなるような装置変更としてフィードバックをかけることが可能であった。これが、プロトタイプ完成の大きな要因である。
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今後の研究の推進方策 |
プロトタイプの基本性能試験の実施が第一の推進すべき課題である。最初に光電面の量子効率の測定を行う。これによって光電面の基本的品質が理解できる。さらにスポット光を有効領域内をスキャンさせて測定することで、光電面の量子効率の一様性を調べる。これはアルカリが光電面全体に拡散しているかどうかの指標となる。もし大きな位置依存性がでた場合、アルカリの飛ばし方に工夫がさらに必要となる。次にMPPCにバイアス電圧をかけ、シングルフォトン相当に光を光電面に入射し、その信号をオシロスコープで観測する。これによってシングルフォトン検出可能かどうかの最初の試験となる。その後、バイアス電圧を変化させ信号の依存性を調べる。また、電極にかける印加電圧とシングルフォトン検出効率の依存性を試験する。入射光をΦ1mm程度に絞り光電面にあて、位置を変えつつ検出効率を測定し、位置依存性を検証する。この光検出器はMPPC2x2のアレイ構造でイメージングを目指しことから、位置依存性の詳細を調べ、マッピングすることが重要となる。 これらの得られた結果をシミュレーションと比較し、矛盾がないかチェックし、再現性に問題がある場合は必要に応じて再試験などを実施する。位置依存性に大きな変化や検出効率の低い場所があった場合は、それが光電面生成に関する量子効率ものか、読み出すMPPC側の問題かを切り分けて、今後の改善対策とする。 同時に宇宙線試験の準備として、暗箱などにインフラ準備や新型光検出器を設置する架台設計などをすすめる。また現状のプログラムを発展させ、宇宙線試験用データ収集プログラムの開発を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
シミュレーションコードの改善に予想以上に時間を費やしたことと、プロトタイプ製造前に当初計画していなかった予備実験を実施したためプロトタイプを複数製造することを延期したためである。ただし、予備実験の成果からプロトタイプ製造は順調にすすみ、問題なく基本性能の試験に到達することができた。今年度は今回の製造品の基本性能試験から得られた結果をフィードバックさせ、より高性能のプロトタイプを製造することが可能となった。この点から、コスト対効果という面では、経済的に良いサンプル製造を行なったための処置と言える。今年度はサンプル製造を複数実施することに執行する予定である。
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