研究課題/領域番号 |
18K03686
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
宇野 彰二 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (70183019)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 量子ビーム / 放射線 / 中性子 / 高感度 / 2次元画像 / 放射線検出器 / 両面セラミック基板 / 高速データ転送 |
研究実績の概要 |
中性子感度を向上させるための方策として、セラミックGEMにボロンを薄く蒸着させて、そのGEMを積層させる方針で開発を進めてきた。前年度までに蒸着の条件出し、ボロン10を濃縮した蒸着用ターゲットの購入などの準備をしてきた。しかし、蒸着装置の故障と新型コロナ感染症の蔓延などの影響により、令和2年度内に必要とされるサイズ(10㎝角)のボロンGEMを製作することができなかった。そこで、令和3年度に行う研究開発をより確かなものとするためと将来の発展を期待して、現状で出来る研究開発を行った。現状で使用可能な蒸着装置(直径9㎝まで)を利用して、ボロンカソードを製作して、試験を行った。試験を行うGEM検出器は10㎝角に対応できるように製作されているので、直径9㎝の円形カソードを10㎝角に合わせるためのアルミ製のフレームを用意して、性能評価を行った。ここで製作したカソードは、熱中性子に対しては、ボロン層で反応させて、アルファー粒子を出すことを念頭に置いている。また、ボロンを蒸着させる母材として水素を多く含んだプラスチック(PET)を利用した。それは、高速中性子に対しては、水素と反応して、陽子を出すことによって、検出することを考えた。もちろん陽子は、薄いボロン層は容易に通過することが可能である。評価試験では、Cf-252放射線源を利用して、熱中性子と高速中性子は、ポリエチレン減速材の有無で切り分けた。アルファー粒子と陽子がガス中で失うエネルギー損失の違いから、信号の種の大きさが違うことを利用して、 熱中性子の場合は、低めの印可電圧、高速中性子の場合は、高めの印可電圧をかけることによって、それぞれを検出可能であることを確認した。また、2次元画像データも同時に取得して、ボロン付きPETがある円形部分のきれいな画像を取得することにも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
蒸着装置の故障と新型コロナ感染症の蔓延の影響により、予定していた10㎝角のボロン付きセラミックGEMの製作をすることができなかった。そのために残念ながら熱中性子に対して、感度が向上できることを示すことはできなかった。しかし、小さいながらプラスチック(PET)にボロンを蒸着させて(実際には、まず、アルミ薄膜を蒸着させた後に、ボロンを蒸着させている)、熱中性子に感度あり、しかも、高速中性子もとらえることができるハイブリッドカソード製作して、評価試験でそれが可能であることを示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度末までに大型の蒸着装置の修理が終わり、ようやく10㎝角のセラミックGEMにボロンを蒸着できる準備が整った。ボロンGEM以外の検出器は、ハイブリッドカソードの試験を行うなど順調に稼働していることが確かめられている。そこで、令和3年度は、蒸着装置の試運転の後に、実際にボロンGEMを製作して、試験を行う。まず、放射線源で基本的な評価を行い、 確実に動作させることができることを確認したのちに、小型パルス中性子源(理研のRANSまたは、北海道大学工学部)で、性能評価を行う。まず、ボロンGEMの積層枚数を増やすことによって、確実に感度が向上していることを確かめる。また、2次元画像も取得可能がどうかも確認する。また、パルス中性子源の肝である飛行時間も同時に取得して、波長別中性子ラジオグラフィ用の検出器として使用可能であることを示す。
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次年度使用額が生じた理由 |
大型の蒸着装置の故障と新型コロナ感染症の蔓延により、計画していた大きさのボロンGEMを製作することができなかった。また、それを使った性能評価試験を行えなかったし、成果を学会等で報告することができなかった。次年度には、性能評価試験や学会発表のための旅費等に予算を使用することを計画している。
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