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2019 年度 実施状況報告書

偏極ビームが解き明かす非摂動QCDとクーロン散乱による前方中性子生成

研究課題

研究課題/領域番号 18K03688
研究機関大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構

研究代表者

三塚 岳  大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 助教 (00566804)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2023-03-31
キーワード高エネルギーハドロン散乱 / 非摂動QCD / スピン
研究実績の概要

1) 非摂動QCDシミュレーションの作成
衝突エネルギー200-510 GeV領域での非摂動QCDシミュレーションを作成し、日本物理学会2019年秋季大会で発表した。非摂動QCDはPomeronやReggeonといった仮想粒子の交換によって成り立つ。本シミュレーションでは陽子-陽子散乱から生成される前方中性パイオンの運動を記述するためbaryon reggeon交換を組み込み、複数のreggeon間の位相差を考慮することで中性パイオンのスピン非対称も計算可能である。本シミュレーション結果とRHICf実験による中性パイオンスピン非対称結果(BNL, 510 GeV)と比較し、横運動量が0.6 GeV/c以上では両者が概ね一致することを確認した。0.6 GeV/c以下でシミュレーション結果とRHICf実験結果が一致しない原因は、実験結果にはΔ共鳴から生成される中性パイオンが多く含まれるが、シミュレーションには陽子-reggeon vertexから直接生成される中性パイオンしか含まれないためと考えられる。
2) RHIC加速器データを用いた前方中性子のスピン非対称の導出
RHICにおけるPHENIX実験データの解析を進めた。特に、PHENIX実験の前方検出器ZDCの特性により鈍ってしまった方位角や運動量等の測定量から、真の物理量を推定するunfolding手法の開発を行った。研究代表者も携わった先行研究(PHENIX Collaboration, Phys. Rev. Lett. 120, 022001)では横運動量を細かく分割することなくスピン非対称を導出していた。一方unfoldingにより横運動量が精度良く求まれば、0.2 GeV/c程度毎にスピン非対称を導出でき、スピン非対称を引き起こす機構の解明へ向けて大きな一歩となる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成30年度から令和元年度までの当初の研究計画は、主に1)クーロン-原子核干渉効果シミュレーションの開発、2)非摂動QCDシミュレーションの開発である。まず1)のクーロン散乱に関して、原子核の形状因子を正確にシミュレーションに実装するには至っていないが、これは計画2)により多くの研究時間を割り振るためである。次に、2)の非摂動QCDシミュレーションの開発は、「研究実績の概要」に記した様に順調に進行している。横運動量が0.6 GeV/c付近ではシミュレートした前方中性パイオンのスピン非対称がRHICf実験結果とも概ね一致している事も確認している。
一方で令和2年度に予定していた、RHIC加速器データを用いた前方中性子のスピン非対称の導出が前倒しで進行している。横運動量毎のスピン非対称を導出するために不可欠なスペクトラムのunfolding手法を開発し、検出器の特性により鈍ってしまった方位角分布もほぼ真の分布へ戻せることを確認した。
上記した様に、クーロン散乱シミュレーションの開発を除けば、計画通りもしくは前倒しで研究が進んでおり、総合的には概ね順調に進展していると言える。

今後の研究の推進方策

令和2年度は、以下の研究を進める。
1) クーロン散乱シミュレーションの開発を進める。初めに、原子核の形状因子を正確に実装し、クーロン場(電磁場)の強度に相当する仮想光子の数とエネルギー分布のシミュレーションを高精度化する。可能であれば、2π-MAIDモデルを導入して光子-陽子散乱のシミュレーションを高度化する。2π-MAIDモデルはγ+p→n+π+πという2パイオン生成反応を記述する理論モデルであるが、技術的に高度なモデルであるため研究代表者が開発した従来のクーロン散乱シミュレーションには未導入である。
2) 令和元年度までに開発した非摂動QCDシミュレーションをさらに高度化する。具体的には入射粒子や生成粒子に対する吸収効果を組み込む。現在は入射粒子と生成粒子の間には一回のpomeronまたはreggeon交換しか起こらないと限定している。しかし入射粒子間、または生成粒子間でもpomeronやreggeon、その他光子の交換が可能であり、この様な仮想粒子交換が生成断面積を抑制する吸収効果となる。交換粒子の位相差から生成粒子のスピン非対称が引き起こされる可能性もあり、吸収効果を含めてRHICf実験結果と比較する。
令和3年度以降は、令和2年度までに開発したクーロン散乱および非摂動QCDシミュレーションとRHIC実験結果(PHENIX実験では陽子-原子核散乱、RHICf実験では陽子-陽子散乱)を比較する。

次年度使用額が生じた理由

次年度使用額が生じた理由は海外出張が想定よりも少なかったためである。令和元年はクーロン散乱シミュレーションと非摂動QCDシミュレーションの開発に関して、国内外の専門家とPomeronやReggonの結合定数やvertex関数の議論を行う予定であった。一方で、クーロン散乱シミュレーションの開発を令和2年度の研究計画に組み込み、非摂動QCDシミュレーションに関しては特に支障なく概ね順調に推移して来たため、令和元年は海外出張を行っていない。
令和二年度は国内出張を2回または海外出張を1回程度想定している。物品費としてはシミュレーション開発とデータ解析のために計算機の増強を計画している。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2019

すべて 学会発表 (1件)

  • [学会発表] RHIC超前方π0単スピン非対称の研究2019

    • 著者名/発表者名
      三塚岳
    • 学会等名
      日本物理学会2019年秋季大会

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公開日: 2021-01-27  

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