研究課題/領域番号 |
18K03688
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
三塚 岳 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 准教授 (00566804)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高エネルギーハドロン散乱 / 非摂動QCD / スピン |
研究実績の概要 |
衝突エネルギー200-510 GeV領域での非摂動QCDシミュレーションを作成し、前方中性子および中性パイオンのスピン非対称度を導出した。非摂動QCDはpomeronやreggeonといった仮想粒子の交換によって成り立つ。 本年度は、陽子-陽子散乱から生成される前方中性子(pp→nX)および前方中性パイオン(pp→pi0X)のスピン非対称を記述するため、reggeon交換によるinclusive過程モデルを作成した。 前方中性子は仮想パイオン交換を主成分とするreggeon交換により生成される。生成された前方中性子がビーム陽子との間のpomeron交換により一定の確率で吸収される"吸収効果"も考慮し、前方中性子スピン非対称の理論計算を行った。計算結果は、申請者も主要著者の一人として加わっているM. Kim, et al. Phys. Rev. D 109,012003 (2024)でも議論されている。 一方で、前方中性パイオン(pp→pi0X)のスピン非対称はどのメカニズムが主成分かはっきりしない。今年RHICf実験理研グループより発表された前方中性パイオンのスピン非対称を見ると、回折事象が優勢なデータと非回折事象が優勢なデータでは非対称の大きさが異なっていることが示唆される。これはつまり、回折事象または非回折事象どちらかが大きなスピン非対称をもち、もう一方が小さいもしくはほぼゼロの非対称をもち、見た目の非対称をなまらせる役割を果たしていると考えられる。非回折相互作用に終状態の吸収効果を含めた断面積および非対称計算を部分的に開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の主な課題は、1)クーロンー原子核干渉効果シミュレーションの開発、2)非摂動QCDシミュレーションの開発である。 1) クーロンー原子核干渉効果シミュレーションの開発に不可欠なベンチマークデータの解析は昨年度既に終了している。 2)の非摂動QCDシミュレーションの開発は、「研究実績の概要」に記した様にやや遅れている。前方中性子は仮想パイオン交換を主成分とするreggeon交換により生成されるが、パイオン以外のρやa2メソン交換の効果も無視できない副次効果である。ρやa2メソン交換、さらにはそれらとパイオン交換との干渉効果による前方中性子生成断面積およびスピン非対称の計算がやや遅れている。前方中性パイオンに関しては、非回折相互作用に終状態の吸収効果を含めた計算を開始したところである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画は以下の2点である。 1) クーロン散乱シミュレーションの開発を進める。 本項目は昨年度未着手だったため、本年度に残った計画である。初めに、原子核の形状因子を正確に実装し、クーロン場(電磁場)の強度に相当する仮想光子の数とエネルギー分布のシミュレーションを高精度化する。さらに2π-MAIDモデルを導入して光子-陽子散乱のシミュレーションを高度化する。最終的にはクーロン散乱と非摂動QCDの干渉効果によるスピン非対称を導出する。 2) 非摂動QCDシミュレーションを論文にまとめる。 陽子-陽子散乱から生成される前方中性子のスピン非対称の記述に関しては、パイオン、ρ、a2メソン以外にa1メソン交換の可能性もかねてから示唆されている。Reggeon交換の干渉効果および吸収効果によるスピン非対称を系統的に議論する。 陽子-陽子散乱から生成される前方パイオンのスピン非対称は、回折事象と非回折事象でどちらかが大きな非対称を、もう一方が小さなもしくはほぼゼロの非対称を持っていることがRHICf実験結果から示唆されている。非回折相互作用に終状態の吸収効果を含めた計算を早急に進め、実験結果の解釈につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は2023年度まで続いた新型コロナウィルス感染拡大により、海外研究者との議論や国内外会議参加を見合わせたためである。 今回生じた次年度使用額は、海外短期出張1回や論文英文校閲などに当てる予定である。 出張ではRHICf実験データを解析担当者と議論し、非摂動QCDシミュレーションの開発に役立てる。
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