研究課題/領域番号 |
18K03691
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研究機関 | 明星大学 |
研究代表者 |
尾中 敬 明星大学, 理工学部, 教授 (30143358)
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研究分担者 |
左近 樹 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (70451820)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 星間物理学 / 赤外線分校 / 衛星観測 / 星間物質 |
研究実績の概要 |
「あかり」衛星の近・中間赤外線カメラ(IRC)で取得した2.5-13ミクロンの近・中間赤外線スペクトルの解析を進めた結果、銀河面上に新たに2つの特異な赤外線天体を発見し、詳細な検討を行った。2つの天体は2.5-5ミクロンの波長帯に非常に深い水、一酸化炭素、二酸化炭素の氷の吸収線を示す。さらに10ミクロンのケイ酸塩の深い吸収バンドのほか、5-7ミクロン帯にも有機物系の氷起源の吸収バンドを示す。これらの特徴は若い星のスペクトルの特徴とよく一致する。一方、Spitzer衛星などのデータを使った5ミクロンから遠赤外線にかけてのエネルギースペクトルの分布は、厚い分子雲の背景にある背景星の特徴に一致し、若い星のモデルとは矛盾する。2つの天体は、いずれも星生成領域や分子雲に属しておらず、どちらの場合であってもこれまでの探査の結果に大きな影響を及ぼす可能性がある。2つの天体のスペクトルについて詳細な検討を行った結果の論文化を進めている。さらにCepAの領域ではSpitzer衛星のデータとの相関の解析を進め、衝撃波の領域で一酸化炭素ガスの輝線スペクトルが生じていることを明らかにした。またこのスペクトルを説明するにはXCNと呼ばれる氷の吸収を考慮する必要があることもわかった。 一方、窒素を含むPAHの密度汎関数理論による研究も進め、窒素を内部に含むPAHが、これまで電離したPAHが起源とされていた中間赤外線帯にみられる未同定バンドの有力な候補になりうることを初めて示した。この結果も査読論文にまとめている。 さらに2021年度打ち上げ予定のJWSTの観測について、すでに採択されているオリオン星雲の観測計画の詳細化を進めるとともに、「あかり」衛星の観測結果の解析を進め、それをもとに共同研究者としての参加も含めて10件の観測提案をまとめ、このうち1件が採択されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナの影響で、年度の前半は研究の進捗に遅れが生じた。また成果発表を予定していた国際研究会が延期となり、成果発表を順調に行うことができなかった。一方、年度後半には、「あかり」の成果をもとに、予定していたJWSTの観測提案を10件まとめることができ、一定の成果をあげることができた。また遅れていたデータ解析も進み、「あかり」衛星の観測結果から2つの特異な若い天体を発見するなど、研究結果がほぼまとまりつつある。Spitzer衛星とのデータの相関も進み、衝撃波が生じていると考えられる星生成領域の場所に、熱平衡では説明できない一酸化炭素の輝線バンドを「あかり」衛星のデータから抽出することにも成功した。このスペクトルには従来から同定が十分にできていない XCN と呼ばれるCNを含む分子の氷の吸収バンドが重なってみられることも明らかにした。これらの結果の論文化も進み、現在一部を投稿、査読中であり、今年度の出版を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を査読論文にまとめ、発表することを予定している。またJWSTの観測提案を目標に行ってきた観測データ解析の結果も平行してまとめて、論文化する予定である。これらと並行して、窒素を含む有機物質のスペクトル解析も密度汎関数理論を用いて進め、新たな観測計画につながる成果をまとめることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナの影響のため、招待公演として研究成果の発表を予定していた国際研究会、国内研究会が延期となったため、海外旅費及び国内旅費の使用がなくなり、次年度に繰越となった。また新型コロナのため、研究環境もオンライン中心に変わったため予定から遅れが生じ、成果のとりまとめが年度内に終了することができなかった。次年度は、研究の推進ととりまとめのための計算機の購入と、成果を査読論文にまとめ公表する予定で、論文掲載料、また年度後半には国際研究会での発表のためなどの旅費の使用を計画している。
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