研究課題/領域番号 |
18K03694
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
牧島 一夫 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 名誉教授 (20126163)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マグネター / 中性子星 / 強磁場 / 連星系 / 宇宙X線 |
研究実績の概要 |
中性子星(NS)の磁場は10の12乗ガウス程度が標準とされるが、近年ではその100~1000倍もの超強磁場をもつ孤立NSとして、マグネターの存在が確立してきた。本研究の目的は、おもに宇宙X線のアーカイブデータを利用した観測的研究を通じ、マグネターの理解を推進する一環として、これまで単独の天体としてのみ検出されてきたマグネターが、実は連星系の中にも存在する可能性があることを追求するものである。これはマグネターの形成過程に新しい知見をもたらしてくれるとともに、連星中の中性子星であれば、連星運動を通じてその質量を推定することが可能なことから、通常の中性子星と比較してマグネターが同様な質量をもつか、それとも異なるかを追求することを可能にしてくれる。これはマグネターの強烈な磁場の起源を探り、原子核物質の状態方程式を詰める上で、有用な情報となろう。それと平行して本研究では、孤立マグネターが内部磁場の応力で縦長に変形し、自由歳差運動を行っているという新しいパラダイムの強化にも努めるものである。
昨年度に続き、今年度で当該研究は以下のように進展し、論文出版、研究集会での成果公表などを進めることができた。(1) マグネター 4U 0142+61の歳差運動をNuSTAR衛星で追認することに成功し、論文出版した。(2) ガンマ線連星 LS 5039からのパスル検出に成功し、論文投稿中である。(3) マグネターSGR 1900+14から自由歳差運動の検出に成功し、論文の準備を進めている。(4)マグネター 1E1547-54で「すざく」が検出した自由歳差運動を、NuSTARでも確認することができ、歳差運動に伴う硬X線パルスの位相変調の振幅が、22 keV付近で共鳴的に増大していることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究は大別して、2本の柱から成る。その1つは、X線連星系に含まれる中性子星のうち、マグネターに匹敵する超強磁場をもつものを発見する試みで、すでに昨年度 X Perseiという天体がその実例であることを発見し、その質量が通常の中性子星よりやや重いという重要な可能性を得ることに成功した。今年度はガンマ線連星LS 5039からパルスの発見に挑戦し、「すざく」とNuSTARのデータで約9秒のパルスを捉えることに成功した。この発見により、この天体がブラックホールかもしれないという説を完全に否定することに成功し、またこの天体からのTeVエネルギーに達するガンマ線放射は、主星からの星風がマグネターの強烈な磁場に衝突し、電子が加速される結果という描像を得て、新しい粒子加速機構に光を当てることに成功した。ただし論文化はやや手こずっており、レフェリーとのやりとりが続いている。
もう1つの柱は、マグネターが内部磁場の応力でわずかに軸対称に変形し、自由歳差運動を行っているという、牧島がこの5年ほど追求して来たテーマを強化する研究である。この面でも今年度は、SGR 1900+14からの自由歳差運動を発見し、3例目とした。1E 1547-5408からは、「すざく」で発見した自由歳差運動を NuSTAR衛星で追認することに成功し、さらには歳差運動に伴うパルス位相変調の振幅が、22 keV付近で共鳴的に増大しているという新発見を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、以下の4つの研究を並行して進める。 (1) LS 5039に含まれるNSが、マグネターであることを報告した論文 (Yoneda et al.) は、その革新性ゆえにレフェリーとの応酬が続いているが、今年度は何としても受理に持ち込みたい。これにより、マグネターが連星系に存在できること、いくつかのガンマ線連星での高効率での粒子加速にはマグネターが関与していること、さらにX Perseiの場合と同様、マグネターは通常の中性子星よりやや大きな質量をもつ可能性などを報告できる。 (2) マグネター1E 1547+54 から「すざく」で検出した、スリップ周期 36 ksecの自由歳差運動を、NuSTARのデータを用いて追確認する作業では、パルスの位相変調が22 keV 付近で共鳴的に増大する現象を定量化し、たとえばそれが陽子サイクロトロン共鳴の徴候であるかどうかを追求する。これに成功すれば、この中性子星の表面に10の15乗ガウスに達する磁場が存在することの直接的な証拠となる。 (3) 新たにSGR 1900+14から発見した自由歳差運動の解析を完遂し、論文として出版する。ここでは対照天体として通常の連星X線パルサー 4U 1626-67 のデータを用い、パルスの位相変調が起きていない事を立証し、もってマグネターと通常パルサーとの差異を明確にしたい。 (4) X Perseiと同様な長周期をもつパルサーとして、4U 0114+65のデータ解析に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、2020年3月16日~19日に名古屋大学にて開催予定の日本物理学会春季年会などの研究集会に、国内出張を予定し、そのための国内旅費を「前倒し使用」の形で計上していた。しかるに新型コロナウィルス流行のため、これらの研究集会が直前ですべて中止となり、前倒し請求分が未使用となってしまった。そのためこの額を次年度に繰り越す必要が生じた。これで研究計画は当初のものに戻ることなるので、当初の予定に沿って使用したい。
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