研究課題
本研究の中心課題は、太陽型振動を示す赤色巨星の約1割で、双極子モードの振幅が小さいという現象の原因を究明することである。2018年度は、以下の2つの成果を得た。(1)Loi & Papaloizou (2017) によって提唱された磁場による仮説を検討し、このモデルには矛盾のあることを示した。(2)関連する課題として、(通常の振幅を持つ)赤色巨星の周波数スペクトルの微細構造の進化を、漸近理論に基づいて説明した。以下詳しく説明する。(1)Loi & Papaloizou (2017) による説では、(双極子モードの振幅の小さい)赤色巨星の中心部には、主系列段階で生成された磁場が残存するとする。このとき、中心部に伝播した双極子的振動は、短波長成分(アルフベン波)を持つようになり、これが減衰することで、振動モードの振幅が小さくなる。一方で、それ以外の成分は磁場の影響をほとんど受けず、従って周波数自体は変わらない(これは観測によって確立している制限である)。しかるに、今回詳しく検討した結果、このモデルの仮定している磁場の強さでは、周波数にも影響が出てしまうことがわかり、従ってこの仮説は内部矛盾を含むものであることが判明した。この結論は本研究独自のものであったが、モデルの提唱者自身による続編 Loi & Papaloizou (2018) の結論も本質的に同じで、磁場による説明は成り立たないということがわかった。(2)赤色巨星の双極子モードは、外層の音波的振動と中心部の(浮力を復元力とする)重力波的振動の結合で構成されているため、複雑な周波数構造を持つ。本研究の代表者は、以前双極子モードを理解する枠組みとして漸近理論を開発したが、今回これに基づき、さらに赤色巨星の内部構造の進化も考慮することで、観測されている振動周波数スペクトルの微細構造を説明することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
磁場による仮説の検証が順調に進み、従来のモデルの不備が明らかになった。これにより、磁場説は現状困難であり、他の可能性を探るべきという方向性がはっきりした。一方で、周波数スペクトルの微細構造の研究にまで進んだことで、赤色巨星の振動に関する理解が深まり、(双極子モードの問題を解決する)他の可能性を探る際の足がかりとなることが期待される。
双極子モードの問題については、従来とは異なる磁場による機構が可能かどうかを探る。さらに自転や振動の非線形性に基づく仮説について検討する。一方で、赤色巨星の振動についての理解をさらに深めるべく、進化した赤色巨星についてその周波数スペクトルの構造を、漸近理論に基づいて理解する研究を展開する。同時に従来の恒星進化モデルに基づく赤色巨星の内部構造が、振動スペクトルから導かれるものと矛盾しないかどうかを詳細に検討する。
予定していた備品の購入を延期したため、さらに国際学会発表のための旅費が、予定より大幅に押さえられたため次年度使用額が生じた。理由は、備品については、当面は現有のもので十分であるため、無理に購入する必要はないと判断したためであり、旅費については、宿泊に安価な大学関連施設を利用できたため、また一部訪問先研究機関からの援助が得られたためである。次年度使用額は、翌年度の国際・国内学会発表のための旅費や備品購入費として利用する予定である。
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Astronomy & Astrophysics
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Physics of Oscillating Stars (PHOST), Banyuls-sur-mer, France, 2-7 September 2018
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10.5281/zenodo.1874121