研究課題/領域番号 |
18K03698
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
三澤 透 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 教授 (60513447)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | AGNアウトフロー / クェーサー吸収線 / クェーサー近接効果 |
研究実績の概要 |
二つのスケールでのクェーサーフィードバック効果を探るのが本研究の目的である。小スケールフィードバックは、クェーサー紫外光による輻射圧で加速された外向きのガス流(アウトフロー)が一定の役割を果たすと考えられている。これらは一般にクェーサーのスペクトル上で吸収線として検出される。本研究では幅の狭い吸収線(Narrow Absorption Line; NAL)を用いた詳細な加速度測定を行っている。一部のNALは銀河・銀河間物質によってももたらされるため、確実にアウトフローに起源を持つNALを同定するには「部分掩蔽解析」という特殊な解析が必要である。そこで当該年度は、本研究のターゲットとなりうるクェーサーサンプルを増やすべく、欧州南天天文台(VLT)で取得されたクェーサー73天体の高分散分光スペクトルを詳細に解析した。その結果、少なくとも38%のクェーサーが一つ以上のクェーサー起源のNALを持つことを確認し、学術論文として報告した。また、アウトフローの放出メカニズムを探るべく、クェーサー光度と幅の広い吸収線(Broad Absorption Line; BAL)検出率の相関を探る研究も行った。その結果、光学的に明るいクェーサーに対するBALの検出率(24%)は、一般的な光度を有するクェーサーに対する検出率(10-15%)よりも有意に高いことを確認した。また、BALの放出速度も有意に高く、中には光速の15%にまで加速されているものも検出された。この結果はアウトフローの放出メカニズムに対して輻射圧が支配的な役割を果たしていることをほのめかすものであり、NALの加速度の理論的考察を進めるうえで重要な結果である。なお、大スケールフィードバックについては、すばる望遠鏡を用いた観測提案(2晩)が採択されたため、最終年度に解析に取り組む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で取り組む二つのテーマのうち、一つ目のテーマ「NALを用いたAGNアウトフローの加速度測定」については、すでに小サンプルを用いた結果を得ているが、より統計的信頼度の高い解析を行うために、VLTのアーカイブデータの中から数十天体の付加的なサンプルの抽出を行った。これら新規対象天体に対しては、すばる望遠鏡とVLTを用いた観測時間をすでに獲得している(観測は2020年度前期)。二つ目のテーマ「投影ペアクェーサーを用いたBALクェーサーからの輻射の異方性の検証」については、直前の地震の影響等で観測がキャンセルになるという不運に見舞われたものの、再度、観測提案がすばる望遠鏡で採択されている(観測は2020年度前期)。
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今後の研究の推進方策 |
二つのサイエンステーマに対して、8メートル級望遠鏡を用いた観測提案が計3件採択されており、いずれも最終年度の上半期に観測が実施される予定である。データの取得とともに速やかにデータ解析、考察、そして学術論文の執筆にとりかかる予定である。悪天候等の理由により必要なデータが揃わなかった場合は、翌年度以降のデータの獲得をめざすことになるが、その一方で、一つ目のテーマに対しては、すばる望遠鏡、ケック望遠鏡、VLT等の8~10メートル級望遠鏡の高分散分光器で取得されたアーカイブデータを、また二つ目のテーマに対してはSDSSの公開データを用いて、サイエンスゴールに到達するための予備的な調査を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当該年度は、概ね当初の予定通りに研究を進めることができたが、前年度の繰り越しがあったため、若干の残額が生じた。 (使用計画)共同研究者と研究打ち合わせをするための旅費、国内外の学会・研究会に参加するための旅費、観測結果の考察に必要な書籍や研究会集録などの購入、学術論文の出版費などに使用する予定である。加えて、研究をスムーズに行うためのパソコン関係の消耗品などを購入する予定である。上記目的のため、2020年度請求額と合わせて使用する。
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