研究課題/領域番号 |
18K03699
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
長谷川 賢二 名古屋大学, 理学研究科, 特任助教 (20536627)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 再電離 / 電波観測 / 超微細構造線 / 輻射輸送シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、大型電波干渉計の観測によって水素とヘリウムの電離状態とその空間的相関関係を明らかにすることで、宇宙再電離の光子源種別に制限を設ける新しいアプローチを提案することであるが、初年度はその理論モデル構築のためのシミュレーションコードの開発および実行を行った。
理論モデル構築のためのシミュレーションでは、宇宙論的構造形成と形成される天体周囲の電離構造を放射源のスペクトルに応じて計算することが必要となるが、そのための計算コードは自ら開発した。2018年度はまず、そのシミュレーション結果の妥当性の検証を、最新のすばるHSCで観測された宇宙再電離期のライマンアルファ輝線天体(LAE)の個数密度や空間分布との比較をすることで行った。このLAEの検出率は周囲の中性水素量に敏感であるため、このLAE観測結果を再現できるか否かで間接的にではあるがシミュレーション結果の妥当性の検証が可能となる。比較結果の結果、申請者のシミュレーション結果は現状の銀河観測と矛盾しないことを示すことができた。さらに、このシミュレーション結果を用いて、再電離期の21cm線の観測が現行のMWAや次世代のSKAといった大型電波干渉計で可能性についても検証した。その結果、LAEと21cm線との相互相関を考えることでMWAやSKAで21cm線が観測できる可能性があること、その際には系外銀河や我々の銀河からの前景放射放射を少なくとも95%以上差し引く必要があることなどを示した。これらの結果は、3本の論文としてまとめ、学術雑誌に掲載された。
以上の研究から、開発したシミュレーションが実用にたるもとの判断し、放射源が活動銀河各などのように硬いスペクトルを持つ場合の本計算を開始し、様々なケースでの水素とヘリウムの電離状態を計算した。この他、異なる時代での21cm線に関する研究も行い2本の論文が掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
開発した計算コードにおいて軽度のバグが発見されたため、シミュレーションのし直しが必要となり、当初の予定より計算の終了に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きシミュレーションを進め、様々な放射源種別モデルを用いて、それに対応した水素とヘリウムの電離状態計算を完了させる。その後、これらの相互相関と放射源種別との対応関係を定量的に示す。この際、特にヘリウムからの超微細構造遷移強度計算において、過去の研究結果には大きな不定性があることが判明したため、特にこの計算の部分に注意を払った見積もりを行う。以上の計算が終了すれば、相互相関計算にはこれまでの銀河-21cm線相互相関研究で用いたものを応用可能であり、シミュレーションが完了次第、すぐに解析に移行できると期待している。その後、これらのシグナルが観測可能であるかを調べる予定であるが、MWAを用いた場合には再電離期のヘリウムからの放射を観測することは不可能であることが判明したため、2020年以降のSKAでの観測へ向けた見積もりに専念する。
これら理論的研究に加え、MWAを用いた宇宙再電離研究の中心機関であるメルボルン大学やシドニー大学への短期滞在や定期会合での交流を通じて観測データの解析手法を習得し、実際にMWAを用いた中性水素21cm線シグナル強度への制限などに貢献する。中期滞在は、本研究課題が継続するの残り2年間で約一ヶ月程度を想定している。
またシミュレーション結果がまとまり次第、本研究で提唱する水素・ヘリウムを用いた光源種別判別法を国際SKAサイエンスワーキンググループに紹介しその有用性を検証する。この際、シミュレーションコードやその結果の提供も視野に入れ、SKAが運用されたのち観測結果と比較する公式理論テンプレートのひとつとして採用されることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
シミューションコードの開発および結果の解析の為の計算機を購入予定であったが、要求スペックを満たす計算機の値段が当初の想定よりも高価であったため、次年度に繰越し、要求スペックを満たす計算機を購入することにした。
その他は予定通り旅費やデータ保存用のストレージ補強に使用する予定である。
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