宇宙再電離が起こったことは宇宙マイクロ波背景放射やライマンアルファの観測などから確実であるが、それを引き起こした電離光子源が何であったかは未解明の問題である。本研究では、天体の放射スペクトルの違いよって生じる水素・ヘリウム電離構造の違いに着目し、中性水素21cmなどの超微細構造線の観測と本研究で行う数値シミュレーションとの比較から電離光子源の同定を目指すものであった。
本研究では、観測データとして自身が参加するオーストラリアの大型電波干渉計MWAプロジェクトのデータを用いる予定であったが、想定していたスペックに届かないなどの問題もあり、観測とシミュレーションデータとの直接比較は断念した。アップデートされた最新の観測では解析手法の改善によりこまでより強い再電離期21cmパワースペクトルの制限を得ることには成功したが、21cm線の直接検出には至らずより洗練された全景放射除去などの手法が必要となることがわかった。
観測との直接比較が叶わないことが判明したため、本研究では特に数値シミューレーションコード作成に注力した。最終年度までに完成させた銀河や活動銀河核を光子源としたシミュレーションコードに加え、最終年度ではより宇宙初期の天体である初代星を光子源としたモデル構築をより精密化させた。これにより、宇宙ではじめての天体形成期からより後期の宇宙再電離期に至る21cm線分布の理論予測が可能となり将来の21cm線観測との直接比較が可能となった。また、実行したシミュレーションデータを学習データとした機械学習により、観測されるライマンアルファ輝線天体の分布から銀河間空間に存在する中性水素分布を予言可能であることも示した。これは将来の21cm線観測で得られる中性水素分布の検証の際にも有用になる。
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