研究実績の概要 |
今年度は, 太陽ダイナモ機構の研究で培った知見を, 恒星の終末期・中性子星の形成段階(原始中性子星段階)へと応用し, 天文学の長年の未解決問題である「中性子星の磁場の起源」の解明に挑んだ。原始中性子星内部でのダイナモの研究は, 過去に一例しか行われておらず(Raynaudら 2019), 我々の研究は言わば第一世代に当たる。従来の研究では無視されてきた原始中性子星のコア対流フェーズ(進化の後期段階に相当)に注目し, コア領域を解くために、原始中性子星の中心から外層までを包括的に解くシミュレーションモデルを独自に開発した。 このモデルを使ったシミュレーション研究の結果, 原始中性子星の自転にともなう対流の対称性の破れの自然の帰結として, 南北非対称な大局的流れ場や南北反対称なエントロピー構造, さらにマグネター級の強度を持つ双極磁場構造が, 原始中性子星内部で自発的に生じることを明らかにした。我々の得た結果は, 過去の理論的な予測 (e.g., Thompson & Duncan 1993)より 1 桁以上遅い自転でも, 原始中性子星においてダイナモが働くこと、対流がコア領域へと拡がる進化後期フェーズの方がダイナモを励起しやすいことを強く示唆するものであり, 中性子星の磁場の起源に関する定説(化石磁場説:中性子星の磁場は重力崩壊前の恒星の主系列進化フェーズで作られたとするもの)に, 一石を投じる重要な成果である。 これらの成果は, 学術論文としてまとめられ, 現在The Astrophysical Journal誌に投稿中である(Masada, Takiwaki, & Kotake 2020, ArXiv:2001.08452)。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は, まず, 流体計算で, 熱対流が作る乱流構造とその揺らぎに及ぼすレイリー数の影響を定量化する。レイリー数および対流層表面の冷却効率の異なる熱対流計算を行うことで、対流場の揺らぎ(具体的には速度分散や頻度分布のガウシアンからのずれ)とレイリー数の間のスケーリング関係を見出し、乱流モデルを構築する。次に、種磁場を加えた電磁流体的な熱対流ダイナモ計算を行う。レイリー数と対流層表面の冷却効率をパラメトリックに変化させることで、系の乱流状態の激しさ・揺らぎの大きさが、磁気状態の遷移に及ぼす影響を調査する。グランドミニマムのような活動性低下期が発現した場合は、遷移の前後の乱流場構造を比較し、遷移をもたらす決定的機構を同定する。
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