研究実績の概要 |
本研究の目的は、太陽活動グランドミニマム期のトリガーとなる物理を電磁流体計算で明らかにすることである。特に注目しているのが熱対流の「統計的揺らぎ」である。系の粘性と熱拡散、回転率の大きさをパラメトリッ クに変化させることで、熱対流が担う乱流起電力の揺らぎの振幅を変化させ、乱流場の統計的性質とグランドミニマムモードの発現の関係を定量物理的に調べる。太陽磁場の状態遷移のトリガーとなる乱流場の時空間構造を同定することが本研究の最終目標である。 R2年度までに、局所駆動型熱対流と冷却駆動型熱対流では、(i)乱流による動径輸送フラックス(turbulent mass fluxやturbulent energy flux)の空間分布に顕著な違いが生じること、(ii)前者は勾配拡散型の理論モデルで記述できる一方、後者を記述できる理論が存在しないこと、(iii)スペクトル的には、後者の方が観測と整合的であること、等を明らかにした。 R3年度は、まず冷却駆動型の乱流輸送を説明する新しい理論モデルを提唱、その理論モデルとシミュレーション結果を定量的に比較し、一連の成果を投稿論文としてまとめた(Yokoi, Masada, & Takiwaki, 2022, MNRAS:受理済み)。この論文では、下降流プルームが担う間欠的な輸送を考慮することで、冷却駆動型熱対流による輸送を定量的にモデル化できることを示した。さらに、現実の太陽熱対流を正しく理解するための新しいツールの獲得を目指し、データサイエンス的研究にも着手した。これは熱対流シミュレーションのデータを教師データとしたニューラルネットワーク(NN)を構築する方法であり、この手法を使うことで、従来の観測では取得困難だった太陽熱対流に関する情報を、太陽表面のデータから抽出できることを明らかにした(Ishikawa et al. 2022, A&A)。
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