研究課題/領域番号 |
18K03703
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
高桑 繁久 鹿児島大学, 理工学域理学系, 教授 (50777555)
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研究分担者 |
伊王野 大介 国立天文台, アルマプロジェクト, 准教授 (60425402)
塚本 裕介 鹿児島大学, 理工学域理学系, 助教 (70748475)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 惑星形成 / ALMA / 原始星 / 円盤 |
研究実績の概要 |
本研究は、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計 (Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA) の観測、アーカイブデータを用いて、生まれたばかりの赤ちゃん星「原始星」周囲の円盤において、惑星が形成されている様相を調べることを目的とする。年齢が1千万年程度の若い星(Class II 天体)周囲の円盤においては、ALMAを用いた詳細観測がこれまで行われてきた。これにより円盤内に惑星の存在を示唆する溝状の構造が捉えられてきている。しかし、まさに現在形成されている「原始惑星」を、円盤内で直接観測できた例は皆無である。これは、惑星形成が Class II より若い、原始星段階 (Class 0, I) で始まっている可能性を示唆する。そこで、本研究では、ALMAの詳細観測やアーカイブデータの検索により、原始星周囲の円盤における惑星形成の観測的徴候を得ることを目指す。 今年度は、Class I 段階から Class II 段階への遷移段階にあると考えられる原始星 HL Tau、Class I 天体 IRAS 04169+2702、および原始星連星 L1551 NE, IRS 5 などの解析を行った。HL Tau 周囲の円盤においては、惑星の軌道の「けものみち」である溝状の構造が捉えられている。ALMAデータはこの円盤のみならず、円盤周囲に回転しつつ円盤に落ち込んでいくガスの成分「エンベロープ」の存在を示唆した。この落ち込んでいくエンベロープのガスは、惑星に質量を供給する源になっていると考えられる。 一方、原始星のALMAのアーカイブデータの検索も並行して行っている。その結果をもとに、海外の関連分野の研究者と共同で、ALMAの大型観測計画(ラージプログラム)の提案書(プロポーザル)を執筆、提出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は限られた時間、マンパワーの中においては、概ね順調に推移しているといえる。一方で、本研究の究極の目標である原始惑星の検出についてはまだ見通しがたっておらず、これについては今後さらなる努力が必要となる。 個別の成果については、まず Class I-II 原始星 HL Tau 周囲の円盤、エンベロープのALMAデータの解析、論文出版は全て完了した。さらに別のClass I 原始星 IRAS 04169+2702については、サブミリ波干渉計 (SMA) のデータ解析から、エンベロープと円盤が逆回転している様相を見出した。これは惑星形成の母体である円盤の形成過程において、磁場が本質的な役割を果たしていることを観測的に示したものである。本論文を出版するとともに、この逆回転の様相をより詳細に調べるためのALMA観測を現在進めている。 一方、太陽程度の星の過半数が双子の星「連星」であることがわかっており、連星周囲に付随する惑星も多く見つかってきている。そこで原始星連星に付随する円盤「周連星系円盤」のALMA観測も行っている。これまで Class I の原始星連星 L1551 IRS 5, L1551 NE のALMA観測を完了し、両者の周連星系円盤に渦巻き構造が見られることがわかった。さらに L1551 NE においては渦巻き腕の中での物質の分布が一方向に偏っているm=1モードが存在しているのに対して、L1551 IRS 5においてはそのようなモードになっていないことも明らかになった。 また今後 ALMA によって詳細観測すべき観測候補天体をリストアップし、国際共同研究のもと、ALMAラージプログラムのプロポーザルを提出した。このプロポーザルは、20天体近くに及ぶ原始星周囲の円盤において、惑星形成の兆候の直接検出を目指すものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まずは論文化されていないALMAデータの論文出版を精力的に行っていく。原始星連星 L1551 IRS 5 周囲の渦巻き腕の構造が、隣の別の原始星連星 L1551 NE のそれと異なっているのは非常に興味深く、タイムリーな出版が望まれる。またL1551 IRS 5, NE と同じ領域にある別の連星 XZ Tau のALMAアーカイブデータの解析を大学院生に行ってもらっている。これについても今年度中の論文化を目指す。さらにXZ Tauについては大学院生と共同で新たなALMAプロポーザルも提出している。このプロポーザルにおいては、連星の軌道運動の直接検出を目指している。これが成功した場合は、ALMAの動画として天体の運動を捉えることができることになり、原始惑星の軌道運動の検出にもつながる成果となる。 本研究の大目標である原始惑星の検出については、まだ十分な見通しはたっていない。今年度初頭に提出したALMAラージプログラムのプロポーザルが採択されることが、本研究が計画年度内までに最大限の成果を上げるためには本質的に重要である。このためにはおそらく5倍にも達する倍率を勝ち抜いて、本プロポーザルが採択される必要がある。できるベストは尽くしているので、なんとか本プロポーザルが採択されることを祈りたい。 もし ALMA ラージプログラムのプロポーザルが採択されなかった場合は、地道にアーカイブデータのイメージング、解析を進めていくしかない。この際、本研究の目的に合致するALMAデータを取得した他の研究グループとも積極的にコンタクトをとり、国際共同体制のもので、成果を出していく。また、本研究計画の最終年度にはもう一度、ALMA のプロポーザルの提出機会がある。そこで今度こそプロポーザルを通せるように、最大限の努力をしていく。
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