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2019 年度 実施状況報告書

中性子星周辺領域の物理過程を加味した連星進化の研究~中性子星ULXへの応用

研究課題

研究課題/領域番号 18K03706
研究機関九州産業大学

研究代表者

鴈野 重之  九州産業大学, 理工学部, 准教授 (20615364)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワード連星進化 / 中性子星 / X線連星 / 降着円盤 / 超高輝度X線天体
研究実績の概要

中性子星周囲の物理状況を加味した,X線連星の進化モデルを構築した.
とくに星風降着するような大質量X線連星について,連星の軌道要素を考慮に入れたうえで,星風物質の持ち込む角運動量の正確な評価を行った.その結果,連星間距離が近い系においては,古典的な降着理論よりも角運動量輸送が重要となることを示した.このことから,星風降着するX線連星系でも中性子星周囲に降着円盤が形成され得ることを示した.
また,中性子星のスピン進化や磁場進化までも考慮にいれた,包括的なX線連星の進化計算コードを開発した.中性子星磁場は誕生時は非常に強いが,時間とともに減衰する.この減衰のタイムスケールで中性子星スピンも進化していくことを示した.中性子星は誕生後しばらくは降着の起きないエジェクタ段階として過ごし,その後急激なスピンダウンが起き,スピン周期は数年のうちに数千秒程度までスピンダウンすることがわかった.初期磁場の大きさを変えた計算から,磁場の強さはエジェクタ段階の終了時期や,スピンダウンの大きさに影響するが,定性的な振る舞いはほぼ変わらなかった.一方,スピンダウンをもたらす物理過程は,磁場の大きさと星風の速さの兼ね合いで大きく変わることがわかった.星風が遅く,磁場も極端には強くない場合には,古典的なプロペラ効果がスピンダウンを引き起こすものの,さらに星風が遅い場合にはShakuraら(2012)によるシェル形成と磁場との相互作用が重要となる.また,星風が速い場合には磁場の効果が卓越し,重力的に補足される前の星風物質が磁場と相互作用してスピンダウンすることが示された.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

3年計画の2年目が終了した時点で,数値コードの開発の主要な部分は終了している.あとは,様々な対象天体に対応する物理を組み込むことで,星風降着する大質量X線連星,円盤を作るような低質量X線連星,また本研究のゴールである超高輝度X線天体など,様々なX線連星系の降着過程と進化の道筋を調べることができる段階にまで到達した.
実際,今年度は星風降着するX線連星について研究が進んでおり,学術的な成果も上がっている.
最終年度は,本研究課題の最終課題でもある,超高輝度X線天体の正体を探る研究を進めていく.この2年間で当該天体の観測例も増え,モデル計算を行う上での正確な材料が集まってきており,当初の計画よりもより具体的,現実的な連星モデルを実現できるのではないかと期待している.今年度,これら先行研究の調査や,観測例および類似天体のデータベース化も進めてきており,3年目のスタートを順調に切ることができている.
これらのことから,研究は順調に進展しているものと考えている.

今後の研究の推進方策

当該研究計画の最終年度となる今年度は,連星進化計算コードを用いて,中性子星を含む超高輝度X線天体(P-ULX)の正体に迫る研究を進めていく.とくにここ数年で,P-ULXの観測例は倍増し,多くの新事実が明らかになっている.とくに重要視しているのは,かなりの割合のULXは,Be型の星をドナーとして持つということである.このことから,Be型のX線連星モデルの進化を追うことで,P-ULX的な振る舞いをする連星系がつくられるか否かを調べていく.この際に重要となる先行研究結果として,観測されているP-ULXでは,中性子星周囲で磁気圧が優勢となる半径と,輻射圧が優勢となる半径が極めて近いという性質が見られていることが挙げられる.このような条件を手掛かりとして,中性子星連星がULXとなるような条件や,連星系の性質を探っていく予定である.
一方,研究を進めていくうえでの不安材料として,新型コロナウイルス感染症(COVID19)の蔓延がある.COVID19のため,出席して議論を行う予定であった研究会などが中止や延期となっている.自身の研究を発表し,他の専門家と議論する機会が減ることは研究を実施するうえで明らかなマイナス要因である.また,計算機を置いている大学が閉鎖という事態となると,研究そのものの進展にも影響がおよぶ可能性がある.このような場合には,先行研究の調査や,観測データの吟味などの作業を先行し,計算や研究会参加を予定よりも遅らせるなど,研究実施予定の変更をにらみつつ作業する必要がある.

次年度使用額が生じた理由

コロナウイルス感染症蔓延のため,春先に出張がキャンセルとなったため.
次年度に出張および論文投稿費として利用予定.

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)

  • [国際共同研究] Al-Balqa Applied University(ヨルダン)

    • 国名
      ヨルダン
    • 外国機関名
      Al-Balqa Applied University
  • [雑誌論文] Stellar wind accretion and accretion disk formation: Applications to neutron star high-mass X-ray binaries2019

    • 著者名/発表者名
      Karino, Shigeyuki; Nakamura, Kenji; Taani, Ali
    • 雑誌名

      Publications of the Astronomical Society of Japan

      巻: 71 ページ: id. 58 (12p)

    • DOI

      10.1093/pasj/psz034

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] Co-evolution of massive stars and neutron stars in wind-fed HMXBs2020

    • 著者名/発表者名
      Shigeyuki Karino
    • 学会等名
      The Evolution of Massive Stars and Formation of Compact Stars: from the Cradle to the Grave
    • 国際学会
  • [学会発表] X線連星系における中性子星の磁場=スピン共進化2020

    • 著者名/発表者名
      鴈野重之
    • 学会等名
      日本天文学会2020年春季年会
  • [学会発表] On the spin of the neutron stars in wind-fed high mass X-ray binaries2019

    • 著者名/発表者名
      Shigeyuki Karino
    • 学会等名
      30th Texas Symposium on relativistic astrophysics
    • 国際学会
  • [学会発表] X線連星系中の中性子星の磁場=スピン共進化2019

    • 著者名/発表者名
      鴈野重之
    • 学会等名
      第32回理論懇シンポジウム『天文学・宇宙物理学の変遷と新時代の幕開』

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公開日: 2021-01-27  

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