研究課題/領域番号 |
18K03710
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大須賀 健 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (90386508)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ブラックホール / 中性子星 / 数値シミュレーション / 輻射輸送 |
研究実績の概要 |
超光度X線源(ULXとも呼ばれる)は、太陽光度の100万倍を超える膨大な光度を持つコンパクト天体であるが、その正体は未だ不明である。その正体を解明するには、(1) 一般相対論的輻射磁気流体シミュレーションによってブラックホール及び中性子星周囲の降着・噴出流の構造を解明し、(2)輻射スペクトル計算を実施してその観測的性質を調べ、観測データとの比較をする必要がある。 本年度は、輻射スペクトルを理論的に作り出すための一般相対論的輻射輸送計算コードを構築した。ULXで起こっているであろう超臨界降着流では、ガスの温度が高温でしかも密度が高いため、コンプトン散乱が輻射スペクトルに甚大な影響を与える。したがって、コンプトン散乱を精緻に解きつつ、歪んだ時空中の光子の伝搬を正しく扱えるコードの作成に成功した。ガスダイナミクスに関しては、既に開発済みの一般相対論的輻射磁気流体コードで調べてある。ただし、輻射場を解く際の近似を外し、より精密な輻射場を解くべく、数値計算コードを発展させている。既に開発の最終段階であり、最終のテスト計算を終えている。以上のように、本計画を推進するのに必要な一般相対論的輻射輸送計算コード、および一般相対論的輻射磁気流体計算コードの開発に成功した。 また、中性子星が強い磁場をもち、磁極と自転軸がずれていると、激しい光度変化が生じる可能性がある。そこで、最終的に大規模でより正確なシミュレーションを実行することを前提に、簡易的なモデルを構築して中性子星の自転による光度変化を調べた。結果、降着柱モデルが観測されている光度変化を説明できることを示した。今後詳細な計算へと発展させる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の遂行に必要な、一般相対論的輻射輸送計算コード、および一般相対論的輻射磁気流体計算コードの開発に成功したこと、そして初期的な計算結果が得られつつあることから、計画は概ね順調に進展していると判断した。 開発に成功した一般相対論的輻射輸送計算コードは、シンクロトロン放射や制動放射、そしてコンプトン散乱を全て実装しており、幅広い波長帯で輻射スペクトルを理論的に作り出すことができるものである。また、歪んだ時空中での光子の軌道を高精度で解くための数値解法を実装している。世界的に見ても有数の計算コードと言える。ブラックホール、および中性子星周囲の超臨界降着流の構造はこれまでのシミュレーションで得られているので、輻射スペクトル計算を実施し、理論と観測との比較を行う準備が整ったといえる。実際、ブラックホールの場合については、初期成果が得られつつある。理論と観測の食い違いが顕著な場合は、一般相対論的輻射磁気流体計算コードを改良し、より正しいガスダイナミクスを解く必要があるが、そのためのコードの改良も順調で、最終のテスト計算をクリアして実際の計算に取り掛かりつつある状況である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、理論的に予想される輻射スペクトルと観測データとを直接比較することでULXの正体に迫る計画である。ブラックホールおよび中性子星周囲の超臨界降着流の構造は、これまでの一般相対論的輻射磁気流体シミュレーションで得られている。シミュレーション結果である密度場、速度場、温度場を用い、一般相対性理論輻射輸送シミュレーションを実施することで理論的に輻射スペクトルを作り出すのである。 最初の段階では、ブラックホールと中性子星の場合で輻射スペクトルにどういった違いが現るのかを調べる。中心天体がブラックホールの場合の研究が進行中で、比較的低温で高密度なアウトフロー中のコンプトン散乱により、硬X線放射が弱められることが判明しつつある。中心星が中性子星の場合、アウトフローの密度が上昇することがわかっているので、より顕著に硬X線放射が弱められると期待される。 また、中性子星が強い磁場を持つ場合は、降着円盤が途切れて降着柱が現れる。幾何学形状の大幅な変更により、輻射スペクトルおよびその角度依存性が大幅に変わる可能性がある。それを調べるのが次の計画である。中性子星が自転することで降着柱の見かけの明るさが変わる効果については既に結果が得られている。 なお、超臨界降着流の構造をより精密に調べるためには、一般相対論的輻射磁気流体力学シミュレーションコードを改良する必要がある。この計画は既に最終段階に入っており、今年度中に計算結果が得られると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 京都大学の共同研究者と年度末に研究打ち合わせを予定していたが、日程の調整がつかずに延期となった。数値シミュレーションコードの改良が目的であり、これには直接会って作業する必要があるので、テレビ会議等での代用は不可能である。したがって、2019年度の早い時期に予定していた研究打ち合わせを実施する計画である。
(使用計画) 数値シミュレーションコードの改良作業のための研究打ち合わせを、2019年度の5月、もしくは6月に予定している。これは年度末に予定していた研究打ち合わせが延期となったためである。年度が変わったために次年度使用となったが、研究計画に変更はない。
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