研究課題/領域番号 |
18K03710
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大須賀 健 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (90386508)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ブラックホール / 中性子星 / 数値シミュレーション / 輻射輸送 |
研究実績の概要 |
超光度X線源(ULX)は、そのX線光度が太陽光度の100万倍を超える極めて明るいコンパクト天体であるが、その中心天体がブラックホールなのか中性子星なのか、まだ決着がついていない。近年、ULXでX線パルスが検出されたことから、少なくとも幾つかのULXについては中性子星が存在すると考えられるようになった。また、銀河系内で初めて発見されたULXからは、およそ1,000万度の高温ガス起源と思われる黒体放射が観測され、ガス噴出を伴う激しいバースト現象が起こった可能性が示唆された。このことから、激しいガス噴出を伴う中性子星への超臨界降着がULXのエネルギー源と考えられる。そこで本研究では、輻射磁気流体力学計算によって磁化した中性子星周囲の超臨界降着とそこで発生するガス噴出流の構造を調べた。その結果、中性子星の磁気圏半径より外側では赤道面付近に超臨界降着円盤が、内側には磁極付近に超臨界降着柱が形成されることがわかった。さらに、円盤および降着柱の両方で降着ガスの一部が噴出することがわかった。ガスの加速メカニズムは主に輻射力である。磁気圏半径が大きいと降着柱が片方の磁極付近にのみ形成される可能性が高く、この場合は赤道面の上下で優位にガス噴出率が異なることになる。ガス噴出流の密度は比較的高く、その光球面は中性子星半径の数百倍から数千倍になる。そこでの温度は約1,000万度であり、これは観測結果と矛盾しない。つまり、中性子星への超臨界降着流から吹き出すガスが、高温黒体放射成分の起源であることを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中性子星周囲の降着構造を解明するための一般相対論的輻射磁気流体計算を順調に実施できた。それにより、X線のパルス放射および噴出ガス起源の高温黒体放射を再現可能な理論モデルを構築することができた。また、さらに高精度で流体計算をするためのコードが完成した。コンプトン散乱を含めた輻射スペクトル計算をするコードも実装することができた。よって、理論モデルをさらに高精度にする準備が完了した。以上のように、シミュレーションは順調に進捗しており、国際研究会への参加や国外の研究者との共同作業の一部が制限されたものの、研究成果の発表や論文の出版は予定通りに行えた。よって、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
中性子星の磁場強度と降着流の降着率を変化させ、降着流と合わせて噴出ガスの密度分布と速度分布を求める。降着柱が片方の極にしかできない状況がシミュレーションで現れているが、その原因はまだよくわかっていない。輻射力による可能性と、磁気再結合による可能性が有力であるので、まずはこの点を解明する。次に、ガス噴出流の観測的特徴について調査する。コンプトン散乱や制動放射、シンクロトロン放射が主たる輻射とガスの相互作用であるが、これらを実装した輻射輸送計算コードで輻射スペクトルや撮像イメージを作り出し、観測データとの比較を行う。必要な大規模計算は、これまで利用してきた東大および筑波大が有するスーパーコンピュータ「Oakforest-PACS」、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイII」に加え、理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」を利用する予定である。計算資源は既に確保済みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定されていた国内外の研究会が、新型コロナウィルスのために全て延期や中止、もしくはオンライン開催となったため、次年度使用額が生じることになった。この予算はデータ解析のためのハードディスクの増量に使用する。また、迅速な計算の実行及びデータ解析のため研究員を雇用する。延期された国内外の会合が開かれる場合には、旅費としても使用する。
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