研究課題
本研究の目的は、活動銀河核 (Active Galactic Nuclei: AGN) のエネルギー源である降着物質が大質量ブラックホール周辺に集積する分子ガストーラスを観測し、密度や温度や組成を調査すると共に、角運動量輸送の鍵となる磁場をファラデー回転量度を用いて測ることである。ALMA電波望遠鏡を用いて電波銀河NGC 1052を観測した結果、半径153 pcの核周円盤 (Circum-Nuclear Disk: CND) は分子ガス総量が5.3E5太陽質量程度しか存在せず星形成を起こすには不十分である一方で、中心2.4 pc内のトーラスには1.3E7太陽質量もの分子ガスが集中していることが明らかになった。これはセイファート銀河等で提唱されている「CNDでの星形成が質量降着を促進する」というモデルとは異なり、電波銀河ではCNDからのガス供給無しにpcスケールのトーラスだけでAGNの活動性を維持している例と見られる。この結果をまとめた論文はAstroPhysical Journal誌に2020年4月に受理された。電波銀河NGC 1052とNGC 4261のファラデー回転量度を計測する偏波観測は2019年に実施され、すでに観測データを入手して解析を進めている。また、NOEMA電波望遠鏡でも電波銀河Cygnus Aの吸収線観測を実施し、観測データを入手している。現在までにNGC 4261の偏波マップが得られ、ジェットに沿った磁場構造を得ている。加えてCNDにおいてCO分子輝線とHCN分子輝線でケプラー回転の速度場が得られており、ブラックホール質量も6E8太陽質量と推定できている。最終年度にてこれらの解析を行い、分子ガストーラスにおける磁場が質量降着に果たす役割を評価する。
3: やや遅れている
計画していた観測は全て実施され、期待通りの品質のデータが入手できており、この点で進捗は順調である。解析は想定以上に多量かつ複雑で綿密な較正を要する上に、2020年3月以降は在宅勤務を強いられ、限られた計算機リソースの範囲で進めており、若干の遅れが生じている。共同研究者との議論や共同作業も、出張して直接の議論ができないため限定的である。
在宅勤務で解析の効率を上げるためにインターネット回線を増強すると共に、自宅に解析用計算機を設置する。共同研究者との共同作業をオンラインで進めるため、GitHubおよびOverleafといったサービスを利用する。
投稿論文の受理が予定より遅れ、掲載料(約USD $1000)の請求が年度内に間に合わず2020年度に先送りとなった。2020年度の支出が可能になり次第、使用する。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 オープンアクセス 1件、 査読あり 2件)
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巻: 2004.09369 ページ: 27 pages
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巻: 893 ページ: id.33, 19 pages
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