研究実績の概要 |
本研究の目的は、活動銀河核 (Active Galactic Nuclei: AGN) のエネルギー源である降着物質が大質量ブラックホール周辺に集積する分子ガストーラスを観測 し、密度や温度や組成を調査すると共に、角運動量輸送の鍵となる磁場をファラデー回転量度を用いて測ることである。 ALMA望遠鏡およびNOEMA望遠鏡を用いて電波銀河NGC 1052, NGC 4261, Cygnus A, 3C 75, NGC 6428, IC 1459の分子ガス吸収線を探査した結果、ジェットのサイズが100 kpc以上に成長し年齢が1E7年以上と見積もられる3C 75とCygnus Aでは有意な吸収線を検出できなかった一方で、ジェットがコンパクトで若いとNGC 1052, NGC 4261, NGC 6328, IC 1459ではCO (一酸化炭素) に加えHCN, HCO+などの吸収線が見られ、中心核を囲む高密度分子ガスから成るトーラスの存在が示唆された。 さらにALMA電波望遠鏡を用いて電波銀河NGC 1052およびNGC 4261の偏波観測を行い磁場計測を試みた結果、トーラスでは偏波率が検出限界と低く、ファラデー回転による磁場測定には到らなかった。しかしトーラスより外側ではジェットの流出方向に沿った偏波が検出できていることから、トーラスでファラデー回転が1E7 rad/m^2以上と大きくファラデー消偏波が起こっていることが示唆される。さらにSO (一酸化硫黄) 吸収線のゼーマン効果による磁場計測も試みたが、ゼーマン効果は検出限界以下で0.3 Gの上限値を得るに留まった。一方でSOの複数のエネルギーレベルにおける吸収の比較から、トーラスの温度が約500 Kと求まり、ダスト表面で生成した硫化物が昇華して発生したことが示唆された。これらの発見を、学術誌に発表すべく論文を執筆している。
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