研究課題/領域番号 |
18K03714
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
山村 一誠 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 准教授 (40322630)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 質量放出 / ダストエンベロープ / 恒星進化 |
研究実績の概要 |
本研究は、2012年に我々が発見した、過去20年の間に大規模な質量放出を行い、急激な赤外線光度の変動を見せた天体の素性を明らかにすることを目的としている。本研究では、我々がこれまで取得した赤外線~電波領域の観測データに対して、輻射輸達計算による詳細な解析により、この天体の星周エンベロープの構造を決定し、そこで起きている事象を定量化する。さらにこの天体の進化過程を推定し、その恒星進化・宇宙進化への影響を議論する。これまでの初期的な解析から、この天体の質量放出量、エンベロープの膨張速度などの性質は、これまでに知られているいかなる天体とも異なっていることが示唆され、その進化過程、質量放出メカニズムの解明は極めて重要な課題である。 本天体は、光学的に極めて厚いダストエンベロープを持つと予想されることから、研究初年度(2018年度)に、北海道大学小笹教授(現名誉教授)の協力を仰ぎ、モンテカルロ法によるダストエンベロープ輻射輸達計算プログラムを用いて、解析を進めてきた。後述の通り、技術的問題、また研究代表者の想定外の業務量増大により研究に大きな遅延が出ていたが、2021年度より改めて研究体制の立て直しを図り、ダストエンベロープを厚さの異なる2層にすること、またモデルを完全にパラメータ制御するというアプローチを発想して簡易的なモデル計算プログラムを作成した。また、モデルスペクトルの定量的な評価手段も確立して解析を進め、観測スペクトルを十分に再現できるダストエンベロープ構造と、パラメータ範囲を得た。これらの成果を、日本天文学会2022年春季年会で報告した。平行して、小笹教授のモデルを2層での計算が可能なように拡張し、物理的に整合性のあるダストエンベロープモデル解析を行うための準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
初年度にあたる2018年度は、研究協力者である小笹教授の協力を仰ぎ、この天体のように極端に光学的に厚いダストエンベロープに適用可能なモンテカルロ法を用いたダスト輻射輸達モデルの開発、動作確認、改良をおこなった。また、解析環境の整備と、計算の高速化にも取り組んだ。第2,3年度にあたる2019-2020年度は、このプログラムにより、観測スペクトルを再現できるようなエンベロープの構造、ダスト量等を求めようとした。しかし、計算可能な物理的に意味のあるパラメータ範囲内では、改善の方向に進むものの観測データを十分に再現するには至らなかった。また、この間研究代表者の所属機関におけるプロジェクト業務が想定以上に増大したことや、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、研究は当初の計画に対して大きく遅延した。このため、事業期間の延長を決断した。2021年度に、改めてダストエンベロープモデルの見直しを行い、光学的に厚い層と薄い層の2層構造を採用することで、観測されたスペクトルをよく再現できることを、全てをパラメータで記述するモデルによって確認し、とり得るパラメータ範囲を定めた。現在、小笹教授と協力して、物理的整合性をもった2層輻射輸達モデルの開発と適用を進めている。また、平行してALMAデータの再解析を進め、分子も含めた星周エンベロープの描像構築に向けた準備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の活動により、ダストエンベロープの構造決定は大きく進捗した。上記の通り、現在物理的整合性のある輻射輸達プログラムによる計算を進めており、当初の目的であったダストエンベロープ構造と精確な物理パラメータの導出を目指して研究を行っている。また、並行して進めているALMAデータの再解析により、エンベロープの空間スケールを確定し、天体までの距離、エンベロープの実距離、光度まで決定することを予定している。これらの情報を元に、この天体の進化を議論することが出来る。集中的な議論のため、関連研究者によるワークショップを開催することを計画している。状況が許せば、対面での議論としたい。 課題としては、輻射輸達計算に多大な時間を要するため、パラメータ決定作業を効率的にすすめる計画検討を十分に行う必要がある。現有の計算力向上のため、計算機の補強も検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析結果が得られたところで関連研究者を集めてWorkshopを開催することにしていたが、上記の通り解析の進捗に遅延が発生したこと、また新型コロナウィルス感染拡大の影響で実施出来ず、旅費をほぼそのまま繰り越した。2022年度は、対面でのWorkshop開催を目指すほか、研究加速のための計算力増強、環境維持のための支出を予定している。
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