本研究は、2012年に我々が発見した、過去30年の間に大規模な質量放出を行い、急激な赤外線光度の変動を見せた天体の素性を、我々がこれまで取得した赤外線~電波領域の観測データと、輻射輸達計算による詳細な解析により、明らかにすることを目的とする。この天体の質量放出量、エンベロープの膨張速度などの性質は、これまでに知られているいかなる天体とも異なっていることが示唆され、その進化過程、質量放出メカニズムの解明は極めて重要な課題である。本天体は、光学的に極めて厚いダストエンベロープを持つと予想されることから、北海道大学小笹教授(現名誉教授)の協力を仰ぎ、モンテカルロ法によるダストエンベロープ輻射輸達計算プログラムを構築して、解析を進めてきた。2023年度は、前年度までに進めてきた、フルモデルパラメータによる広範囲なパラメーターサーベイに基づくダストシェル構造の絞り込み結果に基づき、物理的に整合性のとれた精密な輻射諭達計算で構造決定を進めてきたが、計算機資源の増強にもかかわらず非常に光学的に厚い状態での計算に非常に時間がかかること、また夏頃より再び業務多忙に陥り研究ペースが落ちてしまったことから、年度内の最終結果のとりまとめには至らず、現在も進行中である。 本研究期間を通じて、①ALMAデータの再解析によるシェル輝度分布データの信頼性向上と構造の推定を行った。②パラメーターサーベイによりこの天体のダストシェルが物理的に薄く光学的に極めて厚い内層と、それよりもやや物理的に厚く、光学的にやや薄い外層の組み合わせが、球対称モデルとしてはユニークな解であることを確認した。③モンテカルロ法輻射諭達計算プログラムの最適化と、放射スペクトルのダストシェルのパラメータへの依存傾向を把握した。などの成果を挙げることができた。これは、科研費による支援がなければ成し遂げられなかったことである。
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