本研究では、次世代の宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) 観測衛星である LiteBIRD プロジェクトにおいて、目標達成に死活的に重要となる宇宙線の影響評価と、それに対処する軌道上信号処理の設計を目標とした。プロジェクトの初期段階で境界条件が何度か変わる中、以下のように大きな成果をいくつか得た。
宇宙線の影響評価について。当初の目標を野心的にし、我々と共同研究者のを合わせて end-to-end の評価を行った。太陽・地球系第二ラグランジュ点において期待される宇宙線環境から始め、粒子シミュレーションを行なって焦点面にデポジットされるエネルギー量と分布を求め、熱シミュレータにより超伝導遷移端検出器までの伝熱を計算し、回路シミュレータにより電気的応答を計算し、それを掃天シミュレータで空間スペクトルに焼き直して、偏光の角度スペクトル換算での宇宙線の評価を初めて行った。査読論文1編、紀要1編、修士論文1編の成果を得た。
軌道上信号処理の設計について。研究期間を通して LiteBIRD 衛星設計の検討が各方面から深化された。検出器チャンネル数の増加や望遠鏡間の配分が変わるなど、信号処理系にも影響が及ぶ設計変更がいくつかあった。モジュラー性や冗長性を確保しながら、国際パートナーと頻繁に会合を重ねて設計を進めた。信号処理のアルゴリズムは、(i) 衛星通信帯域に収まる (ii) 圧縮に伴う系統誤差が宇宙論パラメータ決定に影響しない (iii) データの形態によらずロバストに働く、という競合要求の中で最適解を見出した。上記研究で得た宇宙線データに加えて、前景放射や偏光変調器による3K放射からの偏光への漏れ込みなどを含めた現時点で最も現実的な模擬観測データを作成して入力し性能を検証した。市販の FPGA ボードに実装し、初期モデルを作成した。これも査読論文1編、修士論文1編(同上述)の成果を得た。
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