研究実績の概要 |
本年度は対流解像モデル deepconv への火星大気放射過程ならびにダスト巻き上げ過程スキームの導入と, 導入したスキームの妥当性を確認するための検証実験を予定していた. このうちダスト巻き上げ過程スキームは先行研究でさまざまなタイプのものが提案されており, モデル内部で計算される風による地表面応力の強度と分布がその性質を左右することがわかっている. そこで導入するダスト巻き上げスキームの検討を行うため, これまで我々が行ってきた高解像度火星大気境界層ラージエディシミュレーション (Nishizawa et al., 2016) の数値データを用いて循環にともなう地表面応力の分布と, それに対応する循環構造の調査を行った. このシミュレーションにおいて与えた計算領域は水平19.2 km 四方, 鉛直に 21 km であり, 空間解像度は 5, 10, 25, 50, 100 m と変化させている. 解析ではこのうち 5 m 解像度のデータを用いた. 日中の地方時 14:00 から 15:00 までのデータにおいて, 地表面応力が 0.025 Pa を越えるような地点は鉛直対流の上昇域に局在していることがわかった. この地表面応力の強い地点と Nishizawa et al. (2016) で用いられた判定方法によって同定された孤立渦の分布との対応を調べると, 地表面応力の強い地点の半数近くは孤立渦の存在する場所であることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初は、Nishizawa et al. (2016) によってなされた火星大気境界層ラージエディシミュレーションの数値データ解析は 2018 年度前半には終了し, 年度後半には対流解像モデル deepconv への火星大気放射過程とダスト巻き上げ過程スキームの導入とスキームの妥当性を確認するための検証実験を開始する予定であった. しかしながら解析対象としたラージエディシミュレーションの数値データサイズが膨大であったこと, Nishizawa et al. (2016) で用いられた渦判定方法を再現したデータ解析スクリプトの開発に手間取ったため, データ解析に要する時間が当初の見込みよりも長期化することを余儀なくされた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は 2018 年度に予定していた対流解像モデル deepconv への火星放射過程とダスト巻き上げ過程スキームの導入作業と, スキームの妥当性を確認するための2つの検証実験(地球砂漠実験と Rafkin (2009) 再現実験)を開始する. スキーム開発と導入についてはテレビ会議システムを活用した打ち合わせを重ねて研究分担者との連携を密にし, 今年度後半にはスキームの検証実験が開始できるよう研究を加速させる. また, 国内の学会・研究集会において関連分野の情報収集を行うともに, 検証実験の結果の解釈について火星大気放射およびダストストームに関する専門的知識を持つ国内研究者からの助言を求め, 2020 年度以降に予定しているダストストームにおける WISH 的な放射-力学フィードバック検討実験の開始に備える.
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